埼玉新聞

 

大雨に備え「頼もしい施設」完成 さいたま・油面川排水機場が供用開始へ 大規模浸水被害で前倒し供用

  • 7月1日に供用開始する油面川排水機場。油面川(手前)の水を取り込み、ポンプで鴨川(奥)に放流する=5月26日、埼玉県さいたま市桜区道場5丁目(さいたま市提供)

  • 油面川排水機場のポンプ(右)と原動機=21日午前

 さいたま市桜区を中心に、準用河川油面川流域の浸水被害を防ぐため、市が整備を進めていた「油面川排水機場」(桜区道場5丁目)の供用が7月1日に開始される。2019年10月の台風19号では記録的な大雨が降り、桜区で甚大な浸水被害が出たため、市は23年春の供用開始予定を前倒しした。

 市河川課などによると、施設は鉄筋コンクリート造り2階建てで、敷地面積は約2591平方メートル。自家発電機、ポンプ2台、原動機2台、廃棄物を取り除く自動除塵(じょじん)機が整備され、排水能力は1日に最大17万立方メートル。25メートルプールに換算すると、480杯分の雨水を強制的に排水することができるという。

 台風や大雨による洪水時、1級河川鴨川の水位が油面川の水位より高くなると、鴨川からの逆流を防ぐために堤防沿いのゲートを閉めて対応。油面川から排水機場に水が流れ、ポンプ2台により、吐き出し水槽、強制排水路を通して鴨川に放流する仕組み。

 台風19号では、ポンプの制御盤が水没し、水を排出できなくなった。桜区だけで床上浸水743件、床下浸水281件の計1024件に上り、市内の浸水被害の70%を超えた。排水機場の稼働で、市はシミュレーションの結果、床上浸水は97%、床下浸水は81%まで低減できるとしている。

 市は16年度から用地買収、17年度に工事を開始。台風19号の被害を受けて、供用開始を前倒した。整備費用は総額約18億円。清水勇人市長は6月15日の定例会見で、「浸水被害軽減の一翼を担う頼もしい施設の完成に、大きな期待を感じている」と述べた。

■「一安心」でも「不安」

 さいたま市は21日、地元住民や市議、報道機関向けに排水機場を公開し、自治会の住民らは計61人が参加した。桜区桜田3丁目の男性(89)は、3年前の台風19号で自宅が床上浸水した。2階に避難して無事だったが、1階の畳など大きな被害を受けた。「昔と違って舗装が多く、水が一気に来る。押し寄せた水は独特の臭いで、経験した者でないと分からない。雨の時期より前に完成したのは良かった」

 桜区桜田1丁目の男性(82)は、約40年前に油面川が氾濫して、自宅周辺で浸水被害が起きたという。土盛りをして住宅を建て直し、台風19号の大きな被害はなかった。「排水機場ができて、一安心だが、(市の計算でも)浸水する可能性が残る。(建設中の)荒川の調節池が完成しないと、まだ安心できない」

 桜区桜田3丁目の浦和中央青果市場は台風19号で、市場全体が浸水して、出荷前の商品などが被害を受けた。水はけの悪い場所などに排水を新設するなど、対策を進めているという。取締役総務部長の伊沢浩助さん(48)は、排水機場の供用開始について、「懸念が少し和らぎ、前倒しも非常にありがたい。ただ、水がたまってしまう場所なので、懸念の解消までには至っていない」と話していた。

 一方、排水機場の完成自体を把握していたが、公開については知らなかったという。伊沢さんは「市から情報がなく、残念。情報提供を待っているだけでは良くないのかもしれない」と話した。市河川課は「全て自治会を通している」としている。

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