大船渡のような火災の可能性も 林野火災を想定、消防訓練を毎年実施 今冬は降水や積雪少なく乾燥…冬から春先に多く発生 地域の防災管理に努める秩父消防本部…予防運動や広報活動を強化
今月9日に鎮圧された岩手県大船渡市の山林火災は、計12日間で市面積の9%に当たる約2900ヘクタールが焼失し、200棟以上の建物被害を受けた。埼玉県内面積の約25%を占め、森林面積は県全体の60%以上を有する秩父地域(秩父市と横瀬、皆野、長瀞、小鹿野町)も、強風にあおられるなどの気象的な悪条件に見舞われれば、「大船渡市のような大規模火災が生じる可能性がある」と、秩父消防本部(同市下宮地町)の笠原昇署長(60)は注意を促す。同本部では、林野火災を想定した訓練や予防運動、防災無線を活用した広報などを通じて、地域の防災管理に努めている。
■16人が岩手へ
大船渡市の山林火災を受けて、同本部は職員計4班16人が現地に出動し、消火活動に加わった。同本部消防司令の大出貴義さん(50)は8日から2日間、火災現場で断火の確認作業などに従事した。「秩父地域の山火事を何度か対応しているが、焼け野原の光景や全国各地の協力隊員数を見る限り、相当大規模な火災だと感じた。今回、現場に立ち会ったことを今後の教訓にしたい」と振り返った。
同本部によると、秩父地域の直近5年間の林野火災件数は、2024年3件、23年1件、22年1件、21年0件、20年2件と低水準で推移し、焼損面積10ヘクタールを超える火災は起きていない。同本部が発足した1971年以降の一番の大規模火災は、00年2月17日に小鹿野町日尾地内の父不見山(ててみずやま)で発生した山林火災。地元消防署や消防団、県内外の自衛隊員らが5日ほどかけて鎮火し、山林約36ヘクタールが焼失した。住宅被害や負傷者は出ていない。
■若手に経験を
16年以降、同本部は林野火災を想定した消防訓練を毎年実施している。2月27、28日に秩父市の影森地域で行った訓練には、本部職員や管内の消防団、市職員ら計約80人が参加。スギ林の斜面から火災が発生したことを想定し、ホースの延長操作やドローン3基を使った延焼状況の確認・伝達などの連携を確認した。
笠原署長は「山火事は尾根や山頂に向かって燃え広がる傾向にあるため、現場の両側からホースを伸ばせる状況をつくり、高い位置から消火を進めていくことが重要。場数が少ない若者職員のためにも、毎年の訓練は欠かせない」と話す。山林火災は空気が乾燥し、強風が吹く冬から春先にかけて多く発生する。たき火や火入れ、たばこの投げ捨てなど人的による出火原因が大半を占めるという。
笠原署長は、猛暑日が続くなどの近年の気候変動により、今後も各地で大規模な山林火事が発生・頻発化していくのではないかと懸念。「秩父地域の火災件数は、24年に本部発足以来最少の27件を記録するなど減少傾向にあるが、今年の冬は降水や積雪が少なく地面が乾燥しているため、発火や延焼のリスクが高まっている。今後も各市町の消防団協力のもと、広報活動を強化していく」と話していた。