埼玉新聞

 

埼玉でコーヒーをハウス栽培…結実に手応え 久喜の東さん 本格的な収穫は来年以降「埼玉をコーヒーの産地に」

  • 赤く色づいたコーヒーの実

    赤く色づいたコーヒーの実

  • 赤く色づいたコーヒーの実
  • コーヒーの木が植えられた農園を案内する東英雄さん=5日午後、久喜市菖蒲町小林

 久喜市菖蒲町小林で昨年7月からコーヒー豆づくりが行われている。温度管理された約1300平方メートルのハウスで268本の木を減農薬栽培。本格的な収穫は来年以降となるが、赤く色づいた実に農園を経営する東英雄さん(58)は確かな手応えを感じている。「埼玉でコーヒー豆が栽培できることを証明し、仲間を増やして産地にしたい」。緑の大地に刺激的な夢を描く。

 コーヒーの木が並ぶハウスの入り口には、大きなバナナの木がそびえる。ほかにもマンゴー、パイナップル、ライチなどが植えられ、熱帯植物園のよう。「農業に対する偏見をなくし、若い人がやりたくなるような農園にしたかった」。東さんは目を細める。

 さいたま市岩槻区でリサイクル会社「エコドラム」を経営する傍ら、週末は妻の明子さん(54)の実家のイチゴ農園を手伝っていた。義父の死後、自宅近くの農地を相続。ただ、周辺に遊休農地が広がっていたこともあり、扱いに悩んでいた。

 転機が訪れたのは2022年。千葉県内で開催された農業展を訪れ、岡山市の「やまこうファーム」が進める国産コーヒー農園プロジェクトを知った。日本でコーヒー豆を栽培できることに感動し「みんながやっていない農業に挑戦しよう」と参入を決めた。

 コーヒー豆の栽培は、赤道を中心とした熱帯地方の気候が適しているとされ、世界の代表的な産地が集中するエリアは「コーヒーベルト」と呼ばれる。日本はコーヒー豆の99%を輸入に頼っており、生産者は南国を除きほとんどいない。県生産振興課も「県内でコーヒー農園は把握していない」としている。

 プロジェクトでは、やまこうファームから耐寒性や順応性を向上させたアラビカ種「ティピカ」の苗木を仕入れ、栽培方法などのアドバイスも受けられる。収穫したコーヒー豆の買い取り制度もあり、販路にも困らないという。

 しかし、ハウス建設などで4千万円以上かかる設備費用は自己負担となる。節減のため中古のハウスを静岡県内の農家から購入して昨年7月に苗木を植え付けたものの、翌8月の台風で農園は水浸しに。「もう終わりだ」と諦めかけたが、排水ポンプで水を抜いて何とか持ち直した。

 農園は「エコファーム」と名付けてエコドラムが運営し、人手が必要な場合は社員も作業を手伝う。東さんは「気候変動の影響は海外のコーヒー産地にも出ている。日本は食の安心安全に対する関心も高く、国産コーヒーの需要は今後増える」と予想。自身がモデルケースとなり、「農業はもうからない」という先入観の打破を目指す。

 コーヒーの木は初夏に芳香を放つ白色の花を咲かせ、約10カ月ほどで収穫期を迎える。初年に結実したのは10本ほどだが、温度管理以外は手間がかからず、栽培を継続できる自信はついた。東さんは「遊休農地の解消のためにも、農業法人化して農園の規模を広げ、ほかの生産者と一緒に埼玉産コーヒーを広めたい」と語った。

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