埼玉新聞

 

24歳の高校生、じつはプロサーファー…2つの世界タイトル持つサーフィン日本代表 世界の海を渡りながら通信制高校に入学、所沢のキャンパスから五輪へ挑戦 原点は12歳の時の“勘違い”

  • 井上鷹さん(中央)と妹の楓さん(左)、桜さん

    井上鷹さん(中央)と妹の楓さん(左)、桜さん=11日、所沢市内

  • 井上鷹さん(中央)と妹の楓さん(左)、桜さん

 2028年ロサンゼルス五輪の種目に追加される可能性があるサーフィンのロングボードで、7日に日本代表に選出されたプロサーファーの井上鷹さん(24)。ショートボード、ロングボード、SUPの3競技のプロ資格を持つ「三刀流」で、二つの世界タイトルを持つ。本年度からは通信制の角川S高校に入学。世界の海を渡りながら所沢のキャンパスにも通学し、24歳の現役高校生として挑戦を続けている。

 井上さんは宮崎県出身。中学卒業後、プロを目指し独学で技を磨き、16歳でSUPとロングボード、17歳にショートボードのプロ資格を取得。高い技術力と戦略が武器のオールラウンダーで、23年11月にSUPのワールドツアーロング部門、24年12月に同ショート部門で世界王者に輝いた。

■不登校を越えて

 12歳の時、海岸に流れ着いたボディーボードを拾ったことで、サーフィンにのめり込んだ。サーフボードと勘違いして乗りこなす姿を、海岸に訪れていたサーファーから褒められ、サーフボードをもらったという。「なんで乗れるの? すごく上手だね」。知らない人からの褒め言葉が、小学2年生からいじめにより学校に通えていなかった井上さんの心に響いた。

 東京五輪ではショートボードのサーフィンが新種目として採用された。井上さんが日本代表に選ばれたロングボードも、28年のロサンゼルス五輪で追加種目となる可能性が高いという。同じくプロサーファーの妹、楓さん(19)と桜さん(16)のコーチ役も務める井上さんは、「オリンピックに妹たちと3人で出場し、男子金、女子金銀と全部取ることが目標。オリンピックで金を獲得したら、子どもたちの夢や可能性を広げたい」と夢を語る。

■慈善活動契機に

 五輪を目標に据えながらも高校に進学したきっかけは、24年の能登半島地震で子どもたちの心のケアのために現地で行ったボランティア活動だ。被災地の子どもたちは「あなたには分からないでしょ」と心を閉ざし、「ただ単に頑張れと言っても響かない」と感じる壁があった。「何歳でもチャレンジできることを表現したかった」

 妹2人と同級生になり、世界を飛び回りながらの高校生活。海外大会中も勉学に励み、日本との時差に苦しめられる時もあった。「徹夜でレポートを終わらせる時もあったけれど、3人で自習、復習して、協力した」と振り返る。能登の子どもたちに進学を伝えることもでき、「諦めなくていいと、前向きになってくれたり、ありがとうと伝えてくれた子もいた」と笑顔だ。

 4月は中米エルサルバドルでのロングボード世界選手権を控えるが、資金面などの課題もある。「オリンピック種目に決まったらまた活動の幅が広がると思う。サーフィンのことを、まずはいろんな人に知ってほしい」と話した。

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