埼玉新聞

 

甲冑に引かれ文化継ぐ 「素晴らしい伝統技術」 アメリカ出身のマンカベリさん 蕨の工房で修理や復元 個人だけでなく、博物館からも修理依頼が

  • 三浦按針工房の工房主、アンドリュー・マンカベリさん=18日、蕨市中央

    三浦按針工房の工房主、アンドリュー・マンカベリさん=18日、蕨市中央

  • 三浦按針工房の工房主、アンドリュー・マンカベリさん=18日、蕨市中央

 「カン、カン」と商店街に響く甲高い金属音。音の出所は、ショーケースに展示される甲冑(かっちゅう)をまとったマネキンが目を引く、甲冑の修理・復元を行う「三浦按針(みうらあんじん)工房」(蕨市中央)だ。工房主の甲冑師アンドリュー・マンカベリさん(49)は、米国・ニューヨーク州出身。「甲冑のような日本の素晴らしい伝統技術は、世界のために、保存していくべきだ」と日本文化への強い思いを抱いている。

■きっかけは映画

 ニューヨークの農村出身だったアンドリューさんが甲冑に引かれたきっかけは、12歳の時に見た黒澤明監督の映画「七人の侍」。「最初はスカートをはいているのかと思った」と甲冑を知らなかったが、俳優の三船敏郎さんが着用していた鎧(よろい)に強い憧れを抱いた。父と訪れた骨董(こっとう)市で初めて実物を確認。触ってみても材質や構造が分からず、さらに魅力に引き込まれたという。

 甲冑への熱は冷めることなく、アメリカの大学を卒業後、日本の伝統文化の保存方法などについて調査する特別研究員として2006年に来日。08年に、調査の過程で出会った甲冑師の三浦公法さんの誘いを受けて、弟子入りし、約8年の修業を終えて甲冑師となった。

■当時の技術再現

 甲冑師としての仕事は、修理や復元がメインだ。個人のほか、米テキサス州ダラスの博物館からも修理の依頼を受けている。

 アンドリューさんが甲冑を修理する上でこだわっているのが、依頼品の制作時期の技術に合わせて直すこと。甲冑は鉄、金物細工、組みひも、漆、革など日本の伝統技術の結晶で、当時の生活や文化を網羅し、それぞれのパーツの意味を理解して制作することを大切にしている。「鉄砲や矢を止められなければ本物の甲冑ではない」と当時の用途で使えるかどうかが、常に念頭にあるという。

 当時の技術を再現するため、一部の道具は自分で作成。こだわりを貫くため工夫をしているが、日本古来の技術は後継者不足などを理由に全国的に廃れてきている。「素晴らしい技術が何百年と受け継がれてきたのに、なくなってしまうのは残念だ」

■後進育成に思い

 アンドリューさんによると、現在、甲冑師として技術を継承しているのは、自身を含め片手で数えられるほどという。アンドリューさんにはフランスから来た弟子が1人いる。「一人前になるには10年以上かかる。後継者を育てるのは難しい」とアンドリューさん。

 日本の伝統技術の保存について、「需要がないと受け継がれてはいかない。甲冑師のような技術を扱う職人を増やしていくことが重要だ」と語る。

 「日本の伝統文化と聞いて、甲冑が思い浮かぶのはすごいこと。甲冑を通じて日本文化を遺(のこ)していく」

 甲冑の修理依頼などは、写真共有アプリ「インスタグラム」のアンドリューさんのアカウント(@miuraanjinsamurai)へ。

ツイート シェア シェア