50年以上前の銀幕、今でも心に…29年ぶり映画館復活の秩父 かつての若者、関係者ら「守っていって」
今月29日、秩父市上野町にユナイテッドシネマ「ウニクス秩父」が開業し、29年ぶりに秩父地域に映画館ができる。市産業支援課によると、1912~93年の期間に計12カ所の映画館(秩父市6、皆野町2、長瀞町1、小鹿野町3)が存在していたが、映画人口の激減などが原因で軒並み閉館。最後まで営業を続けた映画館は、同市中町の「秩父革進舘」だった。当時を知る関係者や市民らは、新しくオープンする映画館に期待を寄せている。
1950年代から93年1月まで営業していた秩父革進舘の跡地には現在、「関根接骨院・革進舘」が立っている。同院創業者で、映画館時代の最後の館長だった関根正幸さん(75)は「父(正作さん)から受け継いだ映画館をできるだけ長く続けたかったが、どうしても採算が取れなかった」と当時を振り返る。
同映画館はコンクリート造り3階建てで、1~2階が計360席のホールだった。「現在の映画館はスクリーンがいくつもあり、一度に多くの作品を上映できるが、当時は一つの映画館で1作品が当たり前だった」と関根さんは説明する。革進舘では主に洋画作品を上映。60年代に一世を風靡(ふうび)した映画「ロミオとジュリエット」には、中高生などの若者が連日押し寄せたという。
「テレビなどの娯楽が増えたせいか、70年代に入ると映画人口が激減し、秩父の映画館が次々と消えていった」。熱狂的な映画ファンでもある関根さんは、試行錯誤で映画館経営を続けたが、60年代のにぎわいは取り戻すことができなかった。「周りの映画館が次々と閉館しても、利用客がうちに流れてくることはなかった。それだけ、映画ファンの減少は激しかった」。
映画館を畳んでも、映画好きは変わらない。関根さんは現在も、妻の和子さんと一緒に熊谷市や上里町の映画館に足しげく通っている。和子さんは「近場に映画館ができてうれしい。少子化が進み、厳しい状況は当時と変わらないかもしれないが、優れた運営力で秩父の映画館を守っていってほしい」と期待する。
同市の主婦清水ひで子さん(74)は、10代の時に革進舘や秩父東映昭和館(同市番場町、80年ごろ閉館)によく通っていたという。「ビートルズのドキュメンタリー映画は今でも印象に残っている。結婚して子どもができると、レンタルビデオを利用するようになり、映画館に行く機会はなくなっていった」
清水さんが、最後に映画館に行ったのは30年ほど前。「最近の映画事情は全く分からないが、これを機会に、また映画観賞を趣味にしたい。子どもや若者向け映画のほかに、年配者も楽しめる作品を上映してほしい」と話していた。