埼玉新聞

 

【インタビュー】羽田美智子、初客演は「危険」 三宅裕司「貪欲になれる方」 熱海五郎一座6月公演へ【動画連動】

  •  三宅裕司(左)と羽田美智子

     三宅裕司(左)と羽田美智子

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 俳優・三宅裕司が座長を務める「熱海五郎一座」の新作公演「黄昏のリストランテ 復讐はラストオーダーのあとで」が東京・新橋演舞場で6月2日~27日に行われる。「すてきな笑顔」が魅力の羽田美智子、剛力彩芽がゲスト出演する。三宅と羽田に喜劇への思い、これまでの共演エピソードなどを聞いた。

 ※インタビュー動画のURLが記事末尾にあります。

【目次】

(1)三宅「羽田さんの心からの笑顔」

(2)羽田「副料理長の女性像に共感」

(3)「噴いちゃって」止まらない時は?

(4)金の佐野か? 銀の佐野か?

(5)見どころは「料理」

【熱海五郎一座】伊東四朗と三宅裕司が中心になり2004年に「伊東四朗一座」を結成。06年から伊東が出演しない公演時のために三宅が座長となり「熱海五郎一座」を旗揚げした。14年から新橋演舞場に進出し、公演を続けている。羽田美智子は今回が初めての客演。

(1)三宅「羽田さんの心からの笑顔」

 記者 羽田さん、オファーを受けた時の気持ちは?

 羽田 信じられないぐらいうれしかったのと同時に、信じられないぐらい不安になって。熱海五郎一座のファンでした。エンターテインメント性に優れ、レベルもとても高いので、そこに自分が入れるのかなと、ちょっと不安がよぎりました。でも、憧れは憧れているままにしておくよりも、チャレンジして、自分もその中の一員に入るべき努力をすれば、少しでも近づけるのかなという思いがあって、「えいや!」という感じで(挑みます)。今年は蛇年なので、自分自身もたくさん脱皮できたらいいな!

 三宅 どんな気持ちででも来てほしいですね!

 記者 三宅さんは、羽田さんに何を期待しますか? 

 三宅 長いキャリアの女優としての実力を全て見せていただきたい。作家も当然そう思って、せりふを書くと思うので、そこにうまく気持ちで乗っかり、周りに笑いのベテランがたくさんいますから、そこに乗っかっていただければ、うまくいくと思います。

 記者 なぜ羽田さんを選ばれたんですか?

 三宅 今回、作家から提案されたのは「料理」、そこに「悲しい過去」があり「復讐劇」だという三つです。この三つに共通のものを考えたんですね。やはり全部、笑顔がすてきだとできるんですよ。料理もそうですし、悲しい過去があるのに笑顔がすてきというのは、それで一場面ができちゃうくらいの設定です。復讐心に燃えているのに、全くそれを見せない笑顔というのは、ドラマで使えます。

 だから、まず笑顔のすてきな女優さん(を考えました)。テレビドラマ「おかしな刑事」でご一緒した時に、羽田さんが現場に入ってくるとパーッと明るくなるのを体験しています。やはり羽田さんの心からの笑顔があるから、みんなに伝わって和やかになるというのをね。それを肌で感じていましたので、今回は羽田さんにやってもらいたいなと。

 羽田 うれしい! 芝居の大事なことを今、教えていただきましたね。真面目にやればやるほど面白いってことは多分本当にあると思うし、笑いが一番難しい。1回笑ってもらい面白くても、2回3回とやって同じように(客が)笑えるかというと本当に難しい。

 演じる側もだんだん慣れが生じるでしょうし、毎回新鮮な気持ちで演じるには、本当に集中力と真剣さが重要だと思います。始まる前から気を引き締めなくてはという風にも感じました。

 「熱海五郎一座」を見に行くと、始まる前から客席の雰囲気があります。お客さんたちも笑いに来ているんですね。ムードが穏やかで、ガヤガヤと楽しみに待っているんです。幕が上がると「始まった!」という感じで、2時間きっちり楽しもうとして、お客さんも「その空間に一緒に笑う」という心づもりで来ている。そして帰りはみんな笑顔というのを何度も見ています。エンターテインメントの力を感じる舞台の中に初めて立たせてもらいます。笑いに対して真摯に向き合っていきたいです。

 三宅 そうなんですよ。今の日本は、高齢の方が多い。テレビ番組、BS放送の番組や動画配信サイトなどは若者向けが多く、楽しめるものがさほど多くはないでしょう。新橋演舞場に「熱海五郎一座」を見に行くと、大衆的な笑いがあり、幼稚園児からおじいちゃん、おばあちゃんまで一緒に笑える。分かりやすくて爆笑できるものを目指しているので、楽しんで、「明日から頑張ろう」と思っていただけると、作る側の気持ちとピタッと一致します。みんなでワーッと楽しくなるというのが(作り手としても)楽しいです。

(2)羽田「副料理長の女性像に共感」 

 記者 羽田さんの役どころは?

 羽田 昨日、あらすじを見せていただいたのですけれど、読んでいる最中から笑っちゃって。

 三宅 まだ笑いはそんなに入ってないですけどね(笑)。

 羽田 (レストランの副料理長役は)今からすごく楽しみ。でも、そこに流れているテーマには、時事問題があります。私もとても気になっていたんですけれど、食の安全で「今、日本だけ(使用が認められているの)ですよという添加物」や、去年から今年にかけて心配しているお米のことなど、身近にある問題を、喜劇の中で笑いにして見せていく。とても高度なことをしていらっしゃるんですね。「すごいな」と思いました。

 役どころとしては復讐ではありますが、自分の大事なものを奪われた悲しみというのは、付いて回るものかなと思います。正義を振りかざすのではなく、自分なりのやり方で正義を取り戻すみたいな女性像には共感できます。とても大事なことをちゃんと知っている人だなと思っています。「大きな幸せよりも小さな幸せ」を望んでいる人なんですね。奥ゆかしさと賢さを兼ね備えて、ちょっと抜けている感じのキャラクターなのかなと思っています。

 三宅 抜けている感じのところは演じないで大丈夫です!

 羽田 ちょっと待ってください! 誤解されるじゃないですか。それも演じているんですよ(笑)

 三宅 演じているんですよね。そうですよ、分かってますよ(笑)

 羽田 あと(農林水産省の役人を演じる剛力彩芽と)女性同士の対決から始まると思うんです。ひもとくと、2人とも正義の味方のようなところがあり、それぞれの大義名分がある。戦っているので格好いい話になるんじゃないかな。キャストの皆さんはそれぞれが主役をなさる方たちで、一人一人の見せ場があります。それが好きなんですよね。

 三宅 そこが、いつも一番大変なところなんですよね。最初、台本ができた時、例えば「小倉(久寛)の出番が少なくないか。じゃあ小倉を犯人役にしちゃおう」と、そこからまた展開する。みんなに均等に出番があり、笑わせる量をそろえていく。台本ができて稽古までの最初の仕事がそれですね。

 羽田 そうなんですね。やはりバランスを見ているんですね。そのご苦労があるから、一場面を切り抜いても、面白いとなる。すごいことをなさっていますよね?

 三宅 裏でいろいろなことをやる人がいるわけですよ。渡辺正行“リーダー”はこっそり作家に「笑わせる以外のせりふは書かないで」と言ったりして。とにかく笑わせるせりふを言いたくてしょうがない。説明ぜりふは他の人にと。「笑わすところを俺にちょうだい」みたいな。そういうのを阻止しなきゃいけないんです。「何か言ったね?作家に」と(問い詰めることになります)。

 羽田 ハハハ、笑いのプロが取り囲んでくださるから、安心していられます。

(3)「噴いちゃって」止まらない時は?

 三宅 気をつけなきゃいけないのは(俳優自身が)噴いちゃうことですね!

 羽田 ハハハ。

 三宅 噴いてもいいんですよ。噴いたことで、お客さんもドーッと受けるからね。いいんです。問題は、客がもう戻っているのに、まだ噴いていた場合なんです。(一同笑)

 羽田 (笑いが止まらず)ごめんなさい…

 三宅 もう戻らないとだめですよ(笑)

 羽田 (笑い転げて)危険。ちょっと危険ですね。私にとっては地雷がいっぱいありそう。

 三宅 この間、ずっと周りがつなぐわけですよね。(演者の誰かが)笑っていると。でも、最後の手段というのは持っています!

 羽田 どうするんですか?

 三宅 一度みんなで笑う。「全員で笑おう!」と。

 記者 喜劇ならではの技術ですね。

 三宅 まぁ、技術と言っていいかどうか。でも、よくそれは使いましたよ。噴いちゃって、噴いている自分も自分に対しておかしくなっちゃうと止まんなくなっちゃう。

 羽田 止まんなくなっちゃうんですよね、本当に。

 三宅 そういう時は、ちょっと壁とかに行って「一回笑ってこい」と(声をかける)。壁に向かって笑う。それをやったことで「いかん、いかん」と冷静になれる。

 記者 三宅さん、羽田さんのどんなところがコメディエンヌに向いていますか?

 三宅 見て分かるように、笑いに敏感に反応するわけです。それは非常に大事なことでして。ということは、笑いが好きなんですよね、普段の生活の中で。それは喜劇をやる上で、ものすごく大事で。僕はいつもゲストに最初「笑い、好きですか?」と聞いちゃうんですけれども、今回、羽田さんには聞かなかった。

 羽田 どうして?

 三宅 絶対そうだと思ったからですよ(笑)

 羽田 自分が笑うことは好きですね。

 三宅 イコール、客が笑うことに対しても貪欲になれる方だということが多い。熱海五郎一座の稽古場は、みんなくだらないことを真剣に考えています。例えば、ここで(物を)落として蹴っちゃう動きは「どうしたらリアリティーがあるんだろう」と何回も練習している、ずっと見ているとばかみたいなんですよね。

 羽田 ふふふ。

 三宅 本当につまんないことを真剣にやらないと、客に笑ってもらえない。そういうことを一生懸命やって出来上がっている芝居です。台本がもうそうなってますからね。どう演じるかをみんなで研究する稽古場なんです。

(4)金の佐野か? 銀の佐野か?

 記者 2人のこれまでの共演は?

 三宅 「おかしな刑事」だけですかね。

 羽田 はい。ドラマはそれだけなんですけれど。

 三宅 バラエティーは?

 羽田 バラエティーはNHKで。

 三宅 あっ、そうでしたっけ?

 羽田 コントをやらせてもらったことがあります。短いショートコントを積み重ねました。楽しかった。今でも笑っちゃう。

 三宅 「コントの劇場」というのは出演されてます?

 羽田 劇場じゃなくて、NHKさんのスタジオで。

 スタッフ (羽田さんは)「コントの劇場」(2013~14年度放送)に出てくださってます。

 羽田 ん?

 三宅 出てるんですって!

 羽田 え?

 三宅 NHKの「コントの劇場」って番組があったんです。

 羽田 あっ、それです!(笑)

 三宅 (羽田の反応が)面白いでしょ。

 三宅&羽田 あれはもうね。1日の稽古で4本ぐらい(撮影しました)。

 記者 エピソードは?

 三宅 ないですね。だって、今、番組名が分からなかったくらいですよ(笑)

 羽田 いやいや私は覚えています。女神の格好で、ロングヘアのかつらと王冠をつけました。誰かが佐野史郎さんを殺すんです。そして池に落としちゃう。私が出てきて「おまえが落としたのは金の佐野か? 銀の佐野か? それとも普通の佐野か?」と言うんです。殺した人は「なんだ? 俺は落としてないよ」と。

 三宅 それで羽田さんと一緒に佐野史郎さんも沈んでいくんですかね? それで噴いちゃった? 

 羽田 そうなんですよ。おかしくて。

 三宅 いい台本ですね。

 羽田 すごく面白かった。それでその人が本当のことを言ったから「おまえに佐野を返してやろう」と言いました。「俺は殺したのにいらないよ!」という話なんです。

 三宅 これだけ印象に残っていてくれるというのはうれしい。

(5)見どころは「料理」

 記者 羽田さんは「熱海五郎一座」と前身の「伊東四朗一座」。どんな風に見てきましたか?

 羽田 日本で唯一の、笑いの基礎となるものから現代の笑いに通じるものまで「笑いのプロが集結する、本当に心地の良い舞台だな」と。舞台を観劇するときは多少緊張するというか、これからどんなものが出てくるのかと(ドキドキする)。(二つの劇団には)ただ楽しい期待がほとんどだというのがすごいなと思います。みんながそれを期待して行っています。

 三宅 こっちもちょっと演出して、「5分前」というコーナーで必ず、東MAX(東貴博)か深沢邦之がトークをするんです。寸劇です。客とのやりとりで、場を盛り上げてから本番が始まるんで、みんながもう楽しい雰囲気で始まるという。演出自体がそうなっているんですよ。楽しみに来た人が「いよいよ始まるぞ」という気持ちになるようになっていますね。

 記者 今回の公演ならではの仕掛けや工夫は?

 三宅 今一番困っているのが、料理を題材にして、料理をどうしようかなと。つまり舞台上では火は使えないですし、あと食べるシーンはあまりたくさんあっても役者は大変ですし。

 料理というものの存在を、どのように表現しようかと。それもうまくギャグにできるんだろうかと。そこですね、今回はね! 料理が一回も出てこないが料理をテーマにした芝居でも面白いわけですよね。

 羽田 ふふふ。

 三宅 それはそれでいいわけですよね。「そういう手があったか!」みたいな。

 記者 奥深いですね。

 三宅 そういう風に言ってくれるような舞台にしたいですね。テーマ的には奥深いものがたくさんありますからね。テーマは心配してないんですけど、やっぱり笑いですよね。

 皆さんが「笑い」を期待しているので、爆笑の連続で、最後はドラマでほろりときて、テーマが鮮明になるという、これが最高のエンターテインメントです。間に歌とダンスのレベル高いものが入っていれば、ずっと楽しい気持ちで感動して終えられる。これが最高だと思いますね。

 記者 メッセージを。

 三宅 今回の作品はですね、前回、伊東四朗さんと松下由樹さんがゲストで、「四朗さんが動く感動」ということで、とにかく四朗さんが最後まで持つのか(はらはらした)。四朗さんの力もあり、かなりのお客さんが来てくれました。その後ということで今回は、作家も私も一座のメンバーも力が入っております。つまり「前回よりも面白いものをつくる」というのがポリシーですから、絶対つまんないものは作れないなと思っておりますので、ぜひ見に来ていただきたい。

 羽田 三宅さんの話を伺って、本当に緊張してきちゃったんですけれども、熱海五郎一座ファンの皆さんの期待を裏切ることのないよう、一生懸命努めて参ります。また新しく今年、初めて見に行こうかなと思ってくださる方が一人でも多くいれば、私も本当にありがたいです。舞台を盛り上げていこうと思っていますので、ぜひ、劇場に足を運んでください。

※チケット発売は3月30日(日)から<チケットWeb松竹>

▼インタビュー動画をYouTube「うるおうリコメンド」でご覧になれます。動画のURLは下記です。

https://youtu.be/qdBe2toMTnU

(取材・文=共同通信 藤原朋子 撮影=佐藤まりえ)

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