あふれた涙…幼い子らしき遺体を発見「逃げ遅れたか」 泣いた女性職員「普通のOLはヤダ」と飛び込んだ消防の世界、過酷な経験…そして今“埼玉初の女性消防署長”に就任「『できるわけない』の時代ではない」
川口市南消防署に1日、埼玉県内初の女性署長となる鈴木亜弥子署長(58)が着任した。鈴木署長は「消防署は市民に頼られ、信頼される、強い存在でなければならない。市民が安心して暮らせる川口であるよう、安全を守り、災害に対応すべく、署が一丸となって立ち向かう」と話している。
鈴木理事兼南消防署長は川口市出身。市消防局によると県内26消防本部で女性が消防署長となるのは初という。
短大卒業後の1987(昭和62)年4月、市消防局初めての女性職員として採用された。時代はバブル景気の入り口の頃、同級生が証券会社など、きらびやかな世界へと進むのを見ながらも「普通のOLにはなりたくない」との漠然とした思いがあったという。市の広報誌で見かけた採用案内を見て「これだ」と思い、消防の世界を選んだ。
同年、県内では初めて女性職員として県消防学校第77期初任教育入校。同期生は男性ばかりで、中学、高校を女子校で過ごした鈴木署長にとっては、それまで体験したことがない環境だった。
その後、市消防局総務課を振り出しに予防、警防、救急、指令課などさまざまな部署を経験した。危険と隣り合わせの職務の中、ある火災現場で逃げ遅れた幼い子どもとみられる遺体を発見した時は、あふれる涙が止まらなかった。
97年10月からは指揮隊員として県内で初めて交代制勤務に就いた。2012年4月には消防司令、女性で初の管理職となった。
新型コロナ感染拡大時は救急課主幹として最前線に立った。市保健所と連携し「コロナ隊」を組織し患者搬送を実施した。「当初はコロナが何者かも、どう対処していいのかもわからない状態でした」。未知のウイルスから市民の生命と安全、そして隊員を守るため、備品の調達をはじめあらゆる業務に力を尽くした。
階級は消防監。鈴木署長は「職務上、私が女性であることを特に意識したことはない。今は『女性にその仕事ができるわけない』といった時代ではない。若い職員には市民の安心安全のため、さまざまな部門、業務を体験してほしい」と話している。