埼玉新聞

 

大宮の評判フランス料理店「アルピーノ」創業50年 県内フレンチの草分け ファミレス台頭も人気V字回復

  • 50年の歴史を作ってきた(左から)鎌田守男総料理長、阪とし子専務、阪泰彦会長=さいたま市大宮区のアルピーノ

 県内フランス料理の草分け「アルピーノ」(さいたま市大宮区)が創業50周年を迎えた。店舗やギャラリー、結婚式場などで構成される「アルピーノ村」は今や地域のシンボルに。売り上げがじり貧の苦境も味わったが、半世紀もの時代の変化に柔軟に対応し、4世代に渡ってお客が通う県内屈指の名店に築き上げた。

■欧風料理が人気に

 東京の調理師専門学校を卒業後、喫茶店を経営していた阪泰彦会長(76)は車社会の到来に目をとめる。「当時はトラックが乗り付けるような食堂しかなかった。駐車場のある料理店を作りたい」と決意。1969年4月、当時としては珍しいナイフとフォークを使う欧風レストラン「アルピーノ」を開店した。

 ハンバーグやグラタンなど大人気で、阪とし子専務(72)は「行列ができるほど繁盛した」と振り返る。74年に都内にフレンチの支店を開き、77年に現在、総料理長を務める鎌田守男氏(71)を迎えた。

■V字回復

 しかし、70年ごろから台頭するファミリーレストランと競合。売り上げが激減する。全て手作りのアルピーノの調理場にも既製品の缶詰ソースが置かれるように。店の個性や自慢の手仕事が消えかけていった。

 一方、東京の支店では鎌田総料理長が作るフレンチが客の心をつかんでいた。県内ではフレンチへの認知がまだ乏しかったが、77年末、大宮本店をフランス料理店へ転換する決断をする。

 人気の洋食を一切やめると、客からは不満が殺到。調理場の立て直しも容易ではなかった。「鎌田シェフの叱責(しっせき)が客席まで聞こえてきてね」と阪会長。鎌田総料理長は「味は人の精神が入ってこそ。手作りでしか伝わらない料理がある」と妥協を許さなかった。

 フランス料理「アルピーノ」は「見たことのない料理と世界がある」と評判に。経営はV字回復を果たした。

■新たな局面

 その後、客の要望に応え、東京の支店を母体にしたイタリア料理店や洋菓子店、結婚式場、ギャラリーなどをオープン。食と交流の空間「アルピーノ村」が形作られた。

 阪会長は「時代の変化の中で常に生まれ変わりながら、お客さまに育てられた50年だった」としみじみ。鎌田総料理長は「フランス料理は今、ボーダレス化が進む。新たな局面に向き合い、進化していきたい」と決意をにじませた。

 50年前、料理に臭いが移ってはいけないと化粧をやめたとし子専務は「便利なものがたくさんあるけれど、丁寧な料理と食卓を囲む楽しさを伝え続けたい」と笑顔を見せた。

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