性的暴行…女性が2度も悲劇、乱暴した公設秘書は自死 「個人的付き合い」と反論した国に440万円の賠償命令 タクシーや路上で触られ、抵抗できぬままホテルに連れ込まれ、秘書自死で苦しんだ女性「ほっとした」
上田清司参院議員(埼玉選挙区)の公設秘書の男性(故人)から性暴力を受けたとして、元記者の女性が国に慰謝料など1100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が24日、東京地裁で言い渡された。中村心裁判長は、国家公務員である秘書が職務中、当時の準強制わいせつ罪に相当する性的暴行に及んだと認定。国に440万円の損害賠償を命じた。判決を受けて原告の女性は「主張が認められほっとした。現場では『これくらい我慢しなきゃ』『性的な発言は聞き流そう』とうまく振る舞うよう求められてきた。被害者が声を上げることをためらわせる社会は変えたい」とコメントを出した。
中村裁判長は判決理由で、公設秘書の職務について「非常に広範にわたり、広い裁量を有する」とし、新型コロナウイルス対応に関する飲み会や、その帰宅中での性的暴行が「職務内容と密接に関連」していたと認定。2度目の性暴力については「上田議員の動向に関する情報提供を示唆しながら、その意思はなく、原告と性行為を行う目的を有していた」と指摘した。
国側は防犯カメラなどから被害の供述への信頼性に疑義を示し、飲み会や特定の記者への情報提供が職務行為には当たらないと主張していたが、いずれも認められなかった。
原告の弁護団は判決後、参議院議員会館(東京都千代田区)で集会を開き、「取材や報道の自由を侵害した性加害の違法性について国の責任が認められ、勝訴した」と判決を歓迎した。角田由紀子弁護士は、フジテレビなどのメディアを巡る性被害問題に触れ「これまで職場に満ちあふれていた性暴力を女性の人権侵害と認める考えが増えてきた」と変化を強調。中野麻美弁護士は「秘書が自死し、原告は二次被害を被った。被害者であっても女性に問題があったとされる構造の中であまりにも無責任」と述べ、秘書と上田氏がそれぞれの責任を果たすべきだったと主張した。
「原告を支える会」に参加するフラワーデモ埼玉の野田静枝さんは「性暴力は魂の殺人。(秘書は)業務上の性暴力で私たち主権者の知る権利を阻んだ」と民主主義への悪影響を懸念。「たった一人で立ち上がった原告をみんなで支え、ここまで来た。これからも女性の人権が守られるまで、私たちは花を持って立ち続ける」と決意を示した。
一方、憲法99条に定められた憲法尊重擁護義務に基づき、上田氏が秘書への指揮監督を怠ったとの主張は認められなかった。中野弁護士は「議員の責任が認められなかったのは不当。憲法尊重擁護義務を規範として高めていくには、さらなる運動が必要」とし、今後原告と相談の上、控訴についても検討するとした。原告の所属社は「社員の主張が認められたことを喜ばしく思う」とコメントした。
上田氏は同日、「訴訟の当事者ではなく、判決について申し上げることはない。(原告の)気持ちは安易に推し量ることすらはばかられ、お見舞い申し上げたい」とコメント。所属社から昨年、謝罪を求められていたが、言及はなかった。
■「深刻な事態になりかねない」(以下、判決直前の記事)
上田清司参院議員(埼玉選挙区)の公設秘書の男性(死亡)から2020年に性暴力を受けたとして、元記者の女性が国に損害賠償を求めた裁判の判決が24日、東京地裁で言い渡される。埼玉新聞の取材に応じた原告の女性は「週刊誌報道で誤解が広がり、被害者と認められるのに時間がかかった」と二次被害の苦しみを振り返り、「闘うのが記者の使命。相手が権力者でも、『加害は加害』と声を挙げることが大事」と意義を説明した。
訴状によると、女性は20年3月、新型コロナウイルス対応に関連する飲み会の帰宅中や情報提供を理由に呼び出された際、性暴力被害を受けたと主張。秘書は書類送検後に自殺し、不起訴処分となった。一方、国側は「個人的付き合いが背景」として職権乱用や上田氏の監督責任を否定した。
県警の捜査資料は不起訴処分を受けて廃棄されたとして、裁判で提出されなかった。しかし女性は、国側の反対尋問などから、「捜査内容を知り得ているのでは」と疑う。裁判に当たり精査した女性の録音データには、当初、パニック状態で泣きながら警察に相談する様子が残り「途方に暮れている声を聞き、文字起こしをするのがつらかった。資料が残っているなら、出してくれればこんな思いをせずに済んだのに」と言う。
当時の捜査は「思った以上にやってくれた」と感謝する。ただ、「加害者に連絡する際は事前に知らせるとの約束に反し、無断で任意捜査前日に加害者に電話で知らせていた。また、書類送検の際、どの報道機関からも取材されず記事にならなかった」と不自然な点を指摘。女性は「権力が優先され、加害者側に先に情報を伝えたのでは」「ストーカー事件などの場合、深刻な事態になりかねない。これでは県民を守れない」と憤る。
女性の所属社は昨年2月、上田氏に抗議し謝罪を求めたが、上田氏は裁判中を理由にコメントを拒否した。
判決を前に女性は「提訴や裁判の報道が出て、自分の被害を訴えるという目標は達成できた。判決では権力者の悪い行いに制裁を下してほしい」と期待を示した。
■「スクープにつながる情報で断れなかった」(以下、口頭弁論時の記事)
埼玉県内選出の参院議員公設秘書の男性から性暴力を受けたとして、元記者の女性が国に損害賠償を求めた訴訟の第9回口頭弁論が2024月12年17日、東京地裁(中村心裁判長)で開かれ、女性の尋問などが行われた。
本人尋問で女性は2020年3月、飲み会後のタクシーの車内などで秘書から性暴力を受け、その後、「議員の新会派結成に関する情報を提供する」と呼び出されて再び被害を受けたと述べ、「スクープにつながる情報で呼び寄せられ、断れなかった」とした。
女性は県警に告訴状を提出したが、秘書の自殺後、議員の後援会事務局長から「(議員が)『自殺を謝罪と受け止め、告訴を取り下げてほしい』と言っている」と連絡があったと証言。地元では「秘書と不倫関係だった」などの誤った情報が広まり、記者職に戻れなくなったとし、「私が被害者と知ってほしい」と訴えた。
国側はこれまでの弁論で「飲食の中での情報交換は報道関係者にとって職務行為でも、公務員にとって個人的付き合いを背景になされたものに過ぎない」と反論。国側の代理人は反対尋問で女性に「(秘書と)ホテルに入る時に抵抗はしたか」「2度目に秘書と会った際に酒量はセーブしたのか」などと質問した。
訴状などによると、秘書は酒に酔い抵抗できない状態の女性に、タクシーの車内やホテルでわいせつな行為をしたとされる。女性は県警に被害届を出し、秘書は準強制性交と準強制わいせつの疑いで書類送検されたが、自殺し不起訴となった。女性は心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断を受け、記者職を外れた。
裁判は2025年2月20日に結審する見込み。
■「自分が被害者だと分かってほしい」(以下、提訴時の記事)
上田清司参院議員(埼玉選挙区)の公設秘書の男性(死亡)から、性暴力被害を受けたとして、報道機関に勤務する元記者の女性が2023年3月8日、国に慰謝料など1100万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。女性側の弁護団は「公設秘書は権限を濫用し不法行為に及んでおり、上田議員にも指揮監督する責任があった。議員と秘書は公務員なので、国が責任を負うべきだ」と説明した。
訴状などによると、女性は2020年3月24日、後援会事務局長に誘われ新型コロナウイルス対応に関する飲み会に参加。秘書は酔った女性を送るため同行し、タクシーや路上でキスや体を触るなどのわいせつ行為を行った。また、27日には上田氏の新党模索を巡る情報の提供をほのめかして呼び出し、酒に酔い抵抗できない女性をホテルに連れ込み、性的暴行を加えた。女性は県警に被害届を提出し、秘書は8月に準強制性交と準強制わいせつの疑いで書類送検され、その後自殺したため不起訴となった。
女性は心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断を受け、記者職を外れた。弁護士を通じコメントを発表し、「週刊誌報道で多くの人に誤解され、人格が否定された。言葉に言い尽くせない苦しみを感じる。加害者を死に追い込んだ記者という見方をされてつらかった。自分が被害者だと分かってほしい」と訴えた。
上田氏は8日、東京都千代田区の参議院議員会館で会見を開き、「当人が亡くなっておりコメントしにくい。仕事後や休日まで管理する仕組みはなく、注意義務を怠ったと言われるとつらい」と述べた。秘書について「生真面目で堅い人物で、信じるしかなかった」と説明した。