ロシアから逃れたウクライナ避難民、手厚い支援…クルド人「我々も同じはず」 入管法改正で「死者大勢に」
外国人の収容や送還のルールを見直す出入国管理および難民認定法(入管法)の改正案について、政府は今秋開催される臨時国会での提出を見送った。国内の難民申請者は改正案によって当事者の待遇が悪化するとして、反対の姿勢を見せており、県南部に多く滞在しているクルド人らは再提出の見送りに安堵(あんど)した一方で、今後の再提出について「今からとても不安」などと声を漏らした。
「改正案が成立してしまったら、たくさんの人が死んでしまうのではないか…」。川口市に住むトルコ国籍の20代男性は訴える。
男性は中東の山岳地帯に住む「国を持たない最大の民族」とも言われているクルド人。第1次世界大戦後にトルコを中心にイランやイラク、シリアなどに分断され、各国で少数民族として差別や迫害を受けており、男性自身も家族と共に故郷であるトルコの政府軍に追われ、小学生の時に日本に逃れた。今まで一度も難民として認められたことがないため、法律上は在留資格がない不法残留で一時的に出入国在留管理庁での収容を解かれた「仮放免」状態だ。
■申請中に強制送還
国内において、昨年1年間で難民として認定されたのは74人にとどまり、米国などと比較するとその少なさが際立つ。男性はこれまでに1度申請したものの不認定となり、現在2回目の申請をしているという。現行の入管法では申請は何度も行うことができ、手続き中は本国へ強制的に送還されることはない。
一方で改正案では、不法在留外国人の収容長期化を避けることなどを目的に、3回目以降の申請者を強制送還できる仕組みの導入が盛り込まれた。昨年の通常国会で提出されたが、多くの反対デモが行われたほか、野党らも反発し廃案になっている。
■就労も移動も医療も
男性は父母と2人の弟の5人で暮らしており、いずれも難民申請中で仮放免中。在留資格がないため、基本的には就労や県境をまたぐ移動ができないほか、国民健康保険に加入できず、持病を持つ両親の医療費で100万円ほどの借金を抱えながら親族の支援を得て生活している。
「さまざまな自由を制限される日本での生活は苦しい」と男性。しかし、トルコに戻ることは少しも考えられないという。日本で生まれた弟らはクルド語とトルコ語の区別もついていない。「現地ではクルド人がクルドの歌を歌っていただけで殺害されたこともあると聞きました。こんな状況なのに私たちが強制的に送還されたらどうなるか、簡単に想像できます」
■「避難民」には支援
男性のような境遇の難民が国内には数多くいる一方で、ロシアによるウクライナ侵攻から日本に逃れてきたウクライナ人は難民ではなく「避難民」と区別され、生活費を支給するなど手厚い支援を受けている。男性は「支援すること自体はとてもいいこと。ただ、私たちも彼らと同じ避難民であるはず」と主張する。
支援団体「在日クルド人と共に」代表の温井立央さんも「県内で公的な支援を必要としている難民はウクライナの方々だけでない」と口をそろえる。
23日には蕨市で、難民問題に詳しい弁護士や国会議員を招き、入管法改正案を主題にしたシンポジウムを開催する。温井さんは「自分の身近な所にこのような人がいるということを知ってもらい、共生していくためにどうすればいいのか、考えるきっかけをつくりたい」と話している。
シンポジウムは23日午後2時~同5時半、「蕨市立文化ホールくるる」3階多目的ホールで。事前申し込み制で一般千円、学生500円。高校生以下は無料。申し込みは「在日クルド人と共に」のホームページから。問い合わせは、同団体(電話048・242・5452)へ。