埼玉新聞

 

現実は理屈と違った…初のエクモに医師苦戦 今後見据え「最後の切り札」学ぶ さいたまで医療従事者講習

  • 協力してエクモの管理に当たる講習会参加者ら=11日、さいたま市大宮区

 新型コロナウイルス重症患者の治療に用いられる人工呼吸器や人工心肺装置「ECMO(エクモ)」の管理技術を向上するため、県は講習会を開いた。命を救う最後の切り札とされるエクモの知識や経験が豊富なNPO法人「日本ECMOnet」の医師らが講師となり、県内の10医療機関の医療従事者44人が自治医科大学付属さいたま医療センター(さいたま市大宮区)で高度の専門的知識や技術が必要なエクモの講義や演習を受けた。

 コロナ禍を受けて、講習会は2020年から年に1回、計3回開かれた。今回は重症患者を移動させる「院内搬送」、うつぶせの姿勢を取らせる「エクモ下腹臥位(がい)」、患者の異常に対処する「トラブル対応」の3種類の実技が行われた。

 トラブル対応の演習では、患者に見立てた人形について異常を知らせる音が鳴り響く中、チームを組んだ受講者たちがモニターの数値や人工肺などの機器の様子から異常の原因を探った。

 医師になって半年という獨協医科大学埼玉医療センターの河間俊成医師(27)は脱血不良というトラブルに直面し、各数値を食い入るように見つめたが、最後は講師の「上級医を呼びますか」という助け舟にうなずいた。「エクモや機器について学んできたが、扱うのは初めてで、うまく対応できなかった。現実は理屈と違った」と肩を落としたが、「この経験を実践で生かせるように頑張ります」と力を込めた。

 エクモは新型コロナが重症化して機能しなくなった肺に代わり、体外で血液から二酸化炭素を排出し、酸素を送り込む。特に重症患者を救う最後の切り札とされるが、感染症や合併症などの危険性が高く、エクモに習熟した医療従事者の不足が流行初期に浮き彫りになった。

 講師の一人で自治医科大学付属さいたま医療センターの讃井将満副センター長は「感染者の増加により患者が入院できない状況が実際に起きた。今後新たな感染症が定期的に発生すると考えれば講習会をやって損はない」と強調する。

 「心臓や肺の機能を肩代わりするエクモの操作は、言ってみればF1の車を運転するようなもの。公道を時速40キロで走れてもサーキットを300キロで走るときに安全性を担保できない」と管理の難しさを表現する。

 一方で讃井副センター長はエクモが患者以外のプラスの面も指摘する。「死亡者が減るのは大きなこと。医療スタッフは患者を救うために働いているので、救えれば疲れは吹き飛ぶ」と、モチベーション維持の点でも重要とした。

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