「力と勇気を届けたい」先人の歩いた490キロ踏破へ…ALS患う草加の和田さん、東海道五十三次に挑戦
自分の脚で大地を踏みしめて生きる証しを―。国指定難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)を患う、草加市栄町の服飾雑貨デザイナー和田義治さん(51)が8日、東海道五十三次(約490キロ)を歩き抜く挑戦をスタートさせた。ゴールの京都・三条大橋に向けて東京・日本橋を出発。「私と同じ難病に苦しむ人、日常に生きづらさを感じている人たちに、少しでも力と勇気を届けたい」。強い覚悟と決意を胸に、和田さんの人生を懸けた挑戦が始まった。
和田さんが体の異変を感じたのは約5年前。利き手の左手に震えがあり、食事の際に箸を扱えなかった。それ以降も同じような状況は何回も続いた。
脳神経外科など受診するが具体的な症状は分からず、昨年10月に検査入院。その際に担当医からALSと診断された。
ALSは体の筋肉が徐々に衰えて呼吸困難を招き、発症から約2~5年で死に至るといわれる難病。根本的な治療法はなく、現在は国内で約1万人の患者がいるとされる。
日を追うごとに不自由になる左手と向き合いながら、和田さんは「ある程度は(ALSの)覚悟があった」。しかし心のどこかで現実に目を背け、受け入れたくない自分も存在したという。生きることについて考えるたびに感情は揺れ動き、日常でも自然と涙が出てきた。「人は必ず死ぬ。自分はたまたまALSという病になっただけ」。くよくよしても何も始まらない。明るく前向きに生きようと、何度も何度も心に言い聞かせた。
今年の正月のテレビ番組で偶然、東海道五十三次の特集を目にした。「先人たちの進んだ道。自分も歩いてみたい」。素直な思いがじわじわと広がっていった。左手の握力は落ち、右手にも徐々に症状が出始めた時期。全身に大きな痛みはなく、両脚はまだ自由に動く。このタイミングがラストチャンスと決意した。
東海道五十三次の総距離は約490キロ。1日20~25キロを目標に歩き、12月7日までの1カ月間でゴールを目指す。和田さん一人で挑み、毎日の到達地点で宿も手配する。決して無理をせず、あくまで自身の体調が第一。万が一の時は辞退する「勇気」も覚悟する。途中経過は随時、写真共有アプリ「インスタグラム」に投稿予定だ。
チャレンジ初日の8日午前9時、東京・日本橋。雲一つない秋晴れの下、和田さんは堂々と晴れやかに一歩を踏み出した。
心に抱く思いは、焦らず、気負わず、諦めず。そして最も大切にしている「前向きに」。「無謀な挑戦といわれるかもしれないが、無事にゴールすることで何かを残せたら。歩くのは一人だが、決して一人ではない。みんなの支えに感謝して歩き、必ずゴールしたい」。力強く大地を踏みしめ、京都を目指す。