地元支えた「道徳銀行」を復元修理へ…渋沢栄一も関係の旧黒須銀行、入間市博物館がCF 常時公開目指す
入間市博物館は、老朽化が進む市指定文化財「旧黒須銀行」の屋根瓦や外壁を復元修理するため、目標金額を500万円に設定したふるさと納税型クラウドファンディング(CF)を2日から開始した。深谷市出身の実業家・渋沢栄一が運営に関わるなど、地域の住民や産業とともに歴史を重ねてきた旧黒須銀行。入間市博物館は「大切な文化財を皆と守る第一歩を踏み出したい」と協力を呼びかける。
現存する旧黒須銀行の建物は1909(明治42)年に竣工した。耐火性や防犯性に優れた土蔵造りの2階建てで、1階は174平方メートル、2階が61平方メートル。市が65年に埼玉銀行(当時)から借用し同行からの寄贈を経て、94年まで「郷土民芸館」として使われた。市は90年に指定文化財とし現在は1年に数回、一般に公開している。
博物館によると建物は一部で雨漏りが見られ、柱のゆがみも指摘されている。2階部分の屋根には当初、入間産の「小谷田瓦」が用いられていたが、現在は別の瓦となっている。かつては黒しっくいだった外壁も白い塗装が施されている。
復元修理では2階の屋根を小谷田瓦にふき替え、外壁を黒しっくいに戻す。建物を持ち上げるなどして基礎を強化する工事も行う。全ての費用は約2億6千万円に上る見通しという。
小谷田瓦は市内を流れる霞川沿いで取れた粘土を原材料に、明治時代から戦中ごろにかけて生産された。隣接していた倉庫の屋根から下ろされた小谷田瓦約千枚が残されており、復元修理にはこれらを充てる。
CFは最低5千円から受け付け、12月23日午後11時まで募る。1万円以上の寄付には小谷田瓦に名前が記される。返礼品には旧黒須銀行のオリジナルグッズや入間市産の狭山茶などを用意する。
旧黒須銀行は学校への利子を優遇したり、地元の公共事業に寄付したりするなどの資金運用を行っていたことから「道徳銀行」と呼ばれた。渋沢は2年間にわたって同行の顧問を務めたという。
担当者は「当時の人たちがお金を出し合い銀行を作ったことと、皆さんの思いを集めるCFの取り組みには通じるものがある」と説明。「工事終了後は常に開かれた施設を目指し、人と人をつなぐ事業ができる場にしたい」としている。
問い合わせは、市博物館(電話04・2934・7711)へ。
■黒須銀行
勤倹貯蓄と相互共栄を基本方針に据え、繁田満義を中心に設立された金融共済組織「黒須相助組合」を母体とし1900(明治33)年、資本金20万円で豊岡町大字黒須(現・入間市宮前町)に設立された。
地域の基幹産業だった製糸や機業などに融資を行い、一時は県下第3位の銀行に成長した。20年の恐慌で大きな損失をつくり22年、武州銀行と合併した。