埼玉新聞

 

コロナ禍で東京から埼玉への転入増 ドーナツ化顕著 都心へのアクセス、手頃な住宅価格がつながったか

  • 県内市区町村の転出転入超過率。県統計課調べにより作成。昨年8月から今年7月までの転入と転出の差を、昨年8月1日の人口で割った。人口が少ない町村では、数字の変動が大きくなるという

  • 倉橋透教授

 コロナ禍で東京都からの「転出超過」が続いている。総務省が発表した9月の人口移動報告(外国人含む)によると、東京都からの転出者が転入者を3533人上回り、5カ月連続で「転出超過」となった。コロナ禍の人口移動について、都市整備や住環境に詳しい獨協大学(草加市)経済学部長の倉橋透教授が、埼玉県内の市区町村別の転出転入状況を調査したところ、県央部を中心に転入超過率が高くなったことが分かった。東京23区内では住宅価格が上がり、テレワークの普及に伴うドーナツ化現象が見られ、県内への転入につながったと分析している。

■大宮区2・1%

 倉橋教授は、県の資料に基づき、コロナ禍における市区町村の転出転入超過率を算出した。結果、さいたま市大宮区(2・1%)、緑区(1・9%)、西区(1・3%)、伊奈町(0・8%)、上尾市、鶴ケ島市、さいたま市浦和区(いずれも0・7%)、白岡市、蓮田市(同0・6%)など、県央部を中心に転入超過率が大きかった。

 滑川町(1・3%)や本庄市(0・7%)では、駅周辺の宅地開発などの影響で、コロナ前から増加傾向にあった。一方、都心部に近すぎたり一定距離がある地域でマイナスになった。

 同教授によると、東京都区部の新築マンション価格が平均8千万円を超え(不動産経済研究所)、企業でテレワークの導入が急速に増えた(総務省通信利用動向調査)などの理由が挙げられるという。

 都心部から一定の距離圏に転入が増えるドーナツ化現象が顕著に表れており、同教授は「手頃な住宅価格、都心へのアクセスの良さ、より良い住環境、生活の利便性、自治体の子育て支援策などを見て、コロナをきっかけにファミリー層が都心から(埼玉県へ)移動する形になったのではないか」と話す。

■「15分都市」構想

 同教授は調査を踏まえながらも「一時的に人口が増えれば良いというわけではない。今後、中長期的に人口が減少するため、コンパクトな市街地を形成・維持する必要がある。子育て世代の流入を図り、高齢化の影響をできるだけ先延ばしすることも重要」と指摘する。ポストコロナのまちづくりに向け、欧州で注目される「15分都市」構想を上げ「コミュニティーを存続させる、エコロジーで持続可能(サスティナブル)なまちづくりが必要」と提唱している。

 経済協力開発機構(OECD)の報告でも、ドーナツ化はコロナ後の居住パターンの一つとされる。同教授は週2~3日の出勤とリモートワークを組み合わせたハイブリッドな働き方が進み、郊外への移住は今後も続く可能性を示唆する。

 そこで注目されるのが、仏カルロス・モレノ教授が提唱する「15分都市」という概念だ。生活インフラに徒歩か自転車で15分以内に到達できる都市を想定。まちづくりの根幹に「エコロジー・近接・連帯・参加」という概念を置く。

 大都市郊外の今後のまちづくりを巡り、倉橋教授は「15分都市」構想を取り上げる意義について「物理的なまちづくりだけでなく、地域の生活圏として、歴史に基づいた文化、市民同士の連帯、住み良さへの参加意識を通じて、市民に地元を愛してもらう。心理的なコミュニティー、かいわいをつくっていくことが必要」と指摘した。

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