<月曜放談>埼玉県民活動を善行賞で応援 これからの時代、どんな人が世間を豊かにするか 岡本圀衛氏寄稿
高校生の頃、理科の教師に、シラコバトや、野田のサギ山研究の第一人者である小杉先生という方がおられた。また、平野先生(英語)は、万葉学者として有名な犬養孝氏と中学時代同窓で、よく飛鳥とか山の辺の道などの話をしてくれた。一方、川本先生(国語)の家を訪れると部屋中天井まで書籍で埋まっており、我々を読書の世界にいざなった。全力で教師としての仕事をしながら、その外側に何と大きな世界を持っていたことだろう。
しかし、こうした先生だけではない。研究でも、自然保護でも、文化振興でも、困っている方への支援でも、人々に少しでも喜んでいただけるような精神の持ち主が、世の中にはたくさんおられる。年々、社会事業、社会活動、ボランティア、NPO……、企業という堅い組織で指示・命令を受けて動くのではなく、個人として、あるいは緩やかな集まりに自分の意思で参加して、やりたいことをやり実行していく。これからの時代、こうした活動が人間の生活を真の意味で豊かにしていくのではないか、と、かのボルカーも力説している。
さて、埼玉県人会では、2008年、「埼玉県人会善行賞」を創設。地域で善行を積まれている個人、または団体に対して表彰を行っている。表彰というとおこがましいが、そうした方々に共鳴し、その素晴らしい活動を少しでも世間に広げたいと思うからである。これまでに40ほどの個人・団体を表彰している。それぞれ素晴らしい取り組みだが、その中でいくつか紹介すると……。
まず、2010年度に受賞したのは、木暮照子さん。木暮さんは、蓮をモチーフにした作品を作る人形作家で行田市蓮の大使として、地域振興にも注力されている。2013年度に受賞したのは、NPO法人川越きもの散歩の代表理事を務める藤井美登利さん。藤井さんは、川越をはじめ埼玉の街歩きをしながら伝統文化の保存活動を継続中。そのほか、海外でもご活躍されている方々も表彰している。
2013年度に受賞した木暮七絵さんは、インドネシアで、日本への技能実習者向けの日本語学校の運営や発達障がい者の社会自立支援・人材育成活動などに取り組む。また、2015年度に受賞した、NPO法人ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会代表理事の名知仁子さんも、ミャンマーの無医村で現在も命の危険がある中で、訪問診療活動・保健衛生指導・菜園づくり指導を続けている。女性活躍のオンパレードとなってしまったが、勿論男性も堂々の活躍振りであり、歴史研究家や舞踊家等々、じつに幅広い方面の方々が受賞されてきた。
手前味噌になるが、私の父は、昔、北本市の社会教育委員長として、北本を桜の町にしたいとの思いから石戸の名木、蒲冠者源範頼で知られる蒲桜の移植作戦に担当の方と共に取り組んだことがある。バイオテクノロジーで1986年に苗木づくりを開始。1992年に第一次苗木として3本移植できた、第二次はその3年後に……と、大喜びで話していたのを思い出す。こんな雰囲気に包まれると、「私も何かやらなくちゃ。とりあえずどっかの公園の掃除でも…」「その前に家の掃除をして!」。ロマンを解しない現実の声が宙を飛ぶ。
■岡本圀衛(おかもと・くにえ) 埼玉県人会会長・日本生命保険相談役
鴻巣市出身、県立浦和高校―東大法学部卒。1969年日本生命保険に入社。2005年社長、11年会長。現在は同社相談役。18年に埼玉県人会の第12代会長に就任。経済同友会の副代表幹事、経団連の副会長も務めた。78歳。