埼玉新聞

 

<上尾熱中症放置死>絶対許せない…息子の死に胸張り裂けそうな母 禁錮1年を求刑、募る後悔

  • 事故が起きた障害者施設「コスモス・アース」=2017年8月10日午後、上尾市戸崎

 上尾市の障害者支援施設「コスモス・アース」(現生活介護とさき)で2017年、男性利用者=当時(19)=が送迎車内に放置され熱中症で死亡した事故で、安全確保を怠ったとして業務上過失致死罪に問われた、施設職員(39)と=白岡市=と元運転手(75)=さいたま市北区=の論告求刑公判が17日、さいたま地裁(石井俊和裁判長)で開かれた。検察側は禁錮1年を求刑、弁護側はいずれも執行猶予付き判決を求めて結審した。判決は7月16日。

 論告で検察側は、施設のサービス責任者で男性の担当生活支援員でもあった施設職員が、男性の姿が見えないことなどから欠席と誤信し、保護者に連絡するなど所在確認をしなかった点について「最も基本的で重要な義務を怠った」と指摘。元運転手についても「被害者を確実に施設内まで誘導する基本的な注意義務を怠った」として、両被告に禁錮1年を求めた。

 施設職員の弁護側は、送迎担当者が降車を確認しなかったことや施設職員が保護者に連絡を取らなかったことなど複数の要因が重なって事故が発生したと主張。反省を深めていることなどから執行猶予付き判決が相当とした。元運転手の弁護側も「本来行うべき確認を怠ったことに弁解の余地はない」としながらも、自らの不注意を反省していることなどから、執行猶予付き判決を求めた。

 起訴状などによると、両被告は17年7月13日午前9時ごろ、男性が施設に到着した際、施設内への誘導や安否確認などを怠り、約6時間にわたり男性を送迎車内に放置。熱中症で死亡させたとされる。

■母親「日がたつほど後悔」

 事故で息子を亡くした母親は被害者参加制度を利用して公判に参加。息子を助けられなかった悔しさと連絡体制が整っていなかった施設への怒りを陳述した。

 「もうすぐ事故から2年。日がたつほど、あの日、息子の下に駆け付けてやれなかった後悔が募る」―。男性の母親は涙ながらにやり切れない思いを口にした。

 簡単なコミュニケーションを取れるようになるまでは時間がかかったが、施設から帰宅するといつも「お仕事頑張った」と話す息子を抱き締めた。いつしか抱きかかえられるくらいに成長した息子。今は「触れること」ができなくなったことがつらく、息子が大好きだった献立は作れなくなった。

 「いないことに気付いた段階でたった1本、保護者に電話をしてくれていれば」。防げた息子の死に後悔と怒りは尽きない。暑い車内に取り残され、誰かが気付いてくれるまで待つことしかできなかった息子を思うと、胸が張り裂けそうになり、施設側への怒りが込み上げる。

 「(被告らを)絶対に許すことはできない。人を死なせたという重い罪に向き合ってほしい」。愛する息子を奪われた憤りと悲しみを訴えた。

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