ディープすぎる埼玉ツアー、今回は「旧上福岡市」巡る 予想超えるマニアックな珍スポット紹介
埼玉ネタ専門のフリーライター「サイタマニア イシ★バシ」こと石橋啓一郎さん(39)=川越市=は、これまで自身が取材したユニークな建造物や店を紹介するツアーを8年前から開催している。
はっきりいって珍スポット巡りなのだが、石橋さんは多くの人が通り過ぎてしまう「街のお宝」を発掘する名人。今回の舞台は、観光というイメージがほぼない旧上福岡市(ふじみ野市)。ディープすぎる埼玉ツアーに参加してみた。
■謎のサインが街をジャック
冬晴れとなった昨年12月中旬、東武東上線上福岡駅に参加者が集まった。ツアー常連客で蓮田市の会社員浜口淳さん(47)が家族3人で参加。記者(45)も加わり、いざ出発。まず、石橋さんから案内されたのは、同駅東口そばのフェンスで囲まれた空き地だった。
「マルスです」。そう言って石橋さんが示したのは、手のひらサイズの落書き。古代ローマの軍神とは何の関係もなく、土星のような輪を持つ「○」に「ス」が書いてあるので、「マルス」と名づけたそうだ。誰が書いたのかは不明。石橋さんが10年以上前に発見し、同駅周辺や川越、富士見市内で60個を確認済み。
「巡る途中に出てきますから、気をつけて見てください」。石橋さんの観察眼に感心するも、予想を超えるマニアックさにたじろぐ。
■あの芸能人は地元有力者の子孫!?
次に訪れたのは、同駅東口にある高さ2メートルほどの石碑。これは、1914(大正3)年開設の上福岡駅の敷設に尽力した星野仙蔵氏の功績をたたえるもの。この人物、実は女優・星野真里さんのひいおじいさん。
江戸時代から明治時代中頃にかけて、新河岸川では川越から江戸に物資を運ぶ舟運が盛んで、上福岡には福岡河岸という船着き場があってにぎわった。星野家は江戸末期から明治にかけて、ここで福田屋という船問屋を営んでいた。
現在、この建物は市立福岡河岸記念館(同市福岡)として保存されている。舟運の歴史をしのぶとともに、県内で唯一見学ができる明治期の木造3階建てとして知られる。
■“戦争の町”の記憶伝える塀
解説を聞きながら駅前の繁華街を歩き回ると、気分はすっかり地元民。元巨人軍選手のうどん店、大原公園(ふじみ野市大原)の珍しいパンダ型トイレなどを見学。そしてツアー後半、石橋さんは「上福岡は”戦争の町”だったんです」と意外な一言を発する。
現在、市役所や小中学校が建つ上福岡の中央部には、1937年から終戦まで「陸軍造兵廠川越製造所(火工廠)」と呼ばれた広さ約55万平方メートルの弾薬工場があった。
跡地に建設された企業を訪ねてみると、火工廠の塀の一部をそのまま使っていた。「この塀をたたいてください。音が違います」と石橋さん。確かに新しい塀と比べて「ドン」と低い音がし、かなり頑丈に作っていることが分かる。
その後は市立上福岡歴史民俗資料館(同市長宮)で高さ3メートル4センチの「日本で一番大きな手作りほうき」を見学し、最後は大杉神社(同市福岡)へ。かつては舟運関係者の守護神として信仰を集め、船頭たちが舟の上から神社に向かって賽銭を投げたという。
浜口淳さんは今回で3回目の参加。「普通の観光名所には一切行かず、独自の視点で面白いところを紹介してくれるのがいい。埼玉を深く知りたい人にお薦め」と笑う。ちなみにこのツアーは無料。石橋さんは「(自分が)面白いと感じた人や建物について、すべてを伝えたい」と話した。
■「すべて伝えたい」あふれる埼玉愛ゆえに
マスクがトレードマークの埼玉専門フリーライター石橋啓一郎さん(39)=川越市=が、これまで取材した人物や建造物、標識について、裏話も含め「すべてを伝えたい」と、あふれる埼玉愛ゆえにスタートした「イシ★バシツアー」。
2011年9月、「頼むから案内させて」と知人を強引に誘って比企郡を回ったのが第1回。その後、フェイスブックを通じて参加者を募り、毎回定員5人程度で実施している。桶川、所沢、朝霞、志木・富士見、川越編などがあり、これまで25回行って延べ120人以上が参加している。
開催は不定期で年3~4回。石橋さんがフェイスブックでツアーを告知した時に申し込む。次回は未定。
問い合わせは、石橋さん(電話090・6504・3560)へ。