<知事選>候補者らが踏み込まない消防広域化 実現すれば消防車や救急車の出動充実「理解しているはず」
人口減少が進む中、災害時に素早く、手厚い体制で対応するため、埼玉県や国が推進している複数の消防本部を統合する広域化の取り組みが遅れている。埼玉県は現在27ある消防本部を統合し、7ブロックへ広域化する計画を立てている。
5選不出馬の上田清司知事は、定例会見などで「(将来的に)市町村消防は一元化し、埼玉消防庁にしたらいい」と全県1消防を提唱。5人の新人が出馬している知事選(25日投開票)では、治水対策やテロ対策に言及する候補者はいるが、消防本部の広域化までは踏み込んでおらず、論戦は深まっていない。(知事選取材班)
■実現は1ブロックだけ
県消防防災課は、広域化のメリットとして、消防力の強化による住民サービスの向上や消防体制の基盤強化を挙げる。具体的には、消防車や救急車の出動態勢の充実、現場への到着時間の短縮、通信指令や事務部門を含む効率的な人員配置、財政の効率化などが期待できるという。
2006年の消防組織法の改正により、都道府県に広域化計画の策定が義務付けられた。県は08年度、県内36カ所(当時)の消防本部を12年度を期限に7ブロックに広域化する計画を策定したが、本部の設置場所や財政負担を巡る調整が難航。予定通りに広域化が実現したのは、第4ブロックの埼玉西部(所沢市、飯能市、狭山市、入間市、日高市)だけ。
第7ブロックも当初の枠組みから羽生市と蓮田市が抜け、埼玉東部(加須市、久喜市、幸手市、白岡市、宮代町、杉戸町)にとどまっている。
■策定期限は再延長
全国的に広域化が進まないことから、計画の策定期限は13年度から5年間延長され、さらに24年4月1日まで延長されている。同課は「県内でも地域によって人口規模にばらつきがあり、小規模自治体の消防本部は現状のままでは維持が難しくなる。広域化のメリットは市町村側にも理解されているはず」と話す。
広域化を促すため、国は優先的に財政支援を行う重点地域指定を導入。広域化の機運が高い管轄人口10万人未満の消防本部の自治体を知事が指定する。県内では14年に草加市と八潮市、上尾市と伊奈町をそれぞれ指定。草加市と八潮市では16年に広域化したが、上尾市、伊奈町はまだ実現していない。
同課は、地元から危機管理の中枢機能がなくなることへの不安や財政、業務負担増への懸念、大規模災害発生時の消防団との連携を不安視する声などがあることから、広域化が進まないとみている。
上尾市消防本部は「(上尾市と伊奈町の)両首長、職員を含めて協議を進めている。両消防本部の業務範囲などの相違や課題など細かい部分を詰めて、なるべく早く実現したい」としている。
■広域化対象市町村の組み合わせ
第1ブロック=さいたま、上尾、伊奈、県央広域(鴻巣・桶川・北本)
第2ブロック=川口、蕨、戸田
第3ブロック=川越地区(川越・川島)、比企広域(東松山・滑川・嵐山・小川・吉見・ときがわ・東秩父)、県南西部(朝霞・志木・和光・新座)、入間東部地区(富士見・ふじみ野・三芳)、坂戸・鶴ケ島(坂戸・鶴ケ島)、西入間広域(毛呂山・越生・鳩山)
第4ブロック=埼玉西部(所沢・飯能・狭山・入間・日高)
第5ブロック=熊谷、深谷、行田、秩父(秩父・横瀬・皆野・長瀞・小鹿野)、児玉郡市広域(本庄・美里・神川・上里)
第6ブロック=春日部、越谷、三郷、草加八潮(草加・八潮)、吉川松伏(吉川・松伏)
第7ブロック=羽生、蓮田、埼玉東部(加須・久喜・幸手・白岡・宮代・杉戸)