都会でも田舎でも、あれば上りたくなるのが展望台。「県内にも意外な場所にあるんですよ」と、埼玉専門のフリーライター「サイタマニア　イシ★バシ」こと石橋啓一郎さん（40）＝川越市＝は話す。なぜか、「眺めは重要じゃない」と独自の主張を繰り返す石橋さん。そのお薦めスポットを巡ると、そこには目を見張るほど個性豊かな展望台があった。

■108段の先に…

　まず向かったのは滑川町伊古の二ノ宮山展望塔。同町の最高度地点である山頂（標高131・8メートル）を目指し、はあはあと肩で息をしながら狭い急坂を歩く。約15分後、最終関門的な108段のコンクリート階段を上り切ると、小江戸の「時の鐘」を思わせるフォルムが現れた。

　ふるさと創生事業を活用し、1994年に建設された同町のシンボル。包装紙を破ったように中の鉄骨が見える部分があるのが特徴で、石橋さんは「どうです、この斬新なデザイン。景色よりも見た目に魅力を感じる」と力説する。同町によると盆踊りのやぐらをイメージした形だという。

　21世紀にちなんで高さ21メートルの展望台まで階段で上ると、比企の緑豊かな丘陵、そして浅間山や筑波山などのパノラマが眼前に広がる。備え付けの無料の双眼鏡があるのもうれしい。石橋さんは「人口2万人弱の町にこんな立派な展望台があるのがすごい」と付け加えた。

■名前にインパクト

　次は鳩山町赤沼のおしゃもじ山公園にある展望台へ。思わず笑顔になってしまうネーミングだが、この山のふもとに「杓子母神（おしゃもじ様）」のほこらがあることから名付けられたそうだ。「そんなに珍しい形の展望台があるのかな」と内心思いつつの取材だったが、実物を見て思わず「おーっ！」と声を上げた。

　だいだい色の柵のついた階段が螺旋を描きながら八角形のステージまで伸びる。高さはマンションの3階くらい。ざっと見て、ステージ部は20～30人ぐらいは上がれる広さだろうか。

　石橋さんは「このウォータースライダー感。強烈な個性を持つオンリーワンの展望台」と胸を張る。同町に聞いたところ、残念ながら形の由来は分からなかったが、おしゃもじ山は、春になるとツツジで覆われ、4月下旬には近くでツツジ祭りが開催されるそうだ。

■白いエッシャー？

　3カ所目は日高市北平沢の白銀平（しろがねだいら）展望台。緑豊かな奥武蔵自然公園内にあり、標高195メートル。樹木のトンネルの間から見えてきたのは白い建造物。兜（かぶと）飾りを思わせる形で、X型の階段がついているユニークなデザイン。

　左右どちらからでも展望台に上ることができ、踊り場で階段が交差するさまはエッシャーのだまし絵のよう。建物の色はおそらく地名の「白」からきているのだろう。とにかく、特徴的な形に驚いてしまう。

　展望台からの風景は、「さすが昔、物見山と呼ばれていただけある」と言いたくなるほどの大パノラマ。心地よい風を感じながら海のように広がる関東平野を一望。空気の澄んだ日にはスカイツリーや都内の高層ビル、西武ドームなどを見ることができる。

　石橋さんは「展望台は町や市のシンボル的な存在。だから遊び心たっぷりのものを作るのでは」と話していた。

■枇木って知ってる？

　滑川町の二ノ宮山展望塔を訪れた際は「ぜひ立ち寄って」と石橋啓一郎さんが薦めるのは、同町月輪にある町指定文化財「宮島勘左衛門之碑（みやじまかんざえもんのひ）」だ。おにぎりなどを包む「枇木（ひぎ）」の考案者の顕彰碑で、明治末に建てられた。

　説明板などによると、勘左衛門は1814年、月輪村（滑川町月輪）に生まれた。農業をしながら附木（松を薄く削って硫黄を付けた点火用具）の製造をしていたが、30代の頃、関東一帯の竹が枯れ、包装資材だった竹皮が手に入らなくなった。そこで松の木をさらに薄く削って代替品にしようと、4年かけて枇木の製造に成功した。

　そのころには竹が復活し、売るのに苦労したという。勘左衛門は54歳で亡くなったが、その後、枇木の良さが見直され、明治、大正、昭和初期にかけて、月輪付近の地場産業になった。しかし、昭和30年代にビニールや発砲スチロールが普及し、枇木作りは衰退してしまった。

　現代ではプラスチックの海洋ごみが大きな問題となっている。今こそ勘左衛門の枇木の出番かもしれない。