埼玉新聞

 

<台風19号>カスリーン台風教訓の加須に課題 避難勧告なくそのまま避難指示 真夜中の避難で渋滞

  • 利根川に架かる埼玉大橋。台風19号の時は真夜中に避難する車で渋滞が発生した=加須市

 1947(昭和22)年9月に関東を襲ったカスリーン台風は大利根町(現加須市)の利根川の堤防が決壊し、大水害となった。台風19号は県内に甚大な被害をもたらしたが、加須市では自主避難を含む約9千人が広域避難した。72年前の教訓を生かした行動となったが、真夜中に行われた避難指示の在り方に課題が残った。

■9千人移動、渋滞も

 加須市は台風19号が上陸する前の12日午前9時に災害警戒本部を、午後3時10分に災害対策本部を設置した。13日午前1時、利根川の水位が氾濫危険水位に達したため、北川辺地域に避難指示を発令。同2時には大越、樋遣川地域と大利根地域全域に避難指示を発令した。避難指示の発令は市として初めてで、いずれも前段階の避難勧告を実施していなかった。

 市は大型バスを10台配備し、約400人が利用した。北川辺地域の住民は栃木県野木町や茨城県古河市、市内のふじアリーナなどに、大利根地域の住民はSFAフットボールセンターなどに、大越、樋遣川の住民は田ケ谷総合センターなどに避難した。

 避難は自家用車を用いる市民が多く、真夜中に利根川に架かる埼玉大橋が渋滞した。

 カスリーン台風を経験している同市柏戸の針ケ谷和男さん(80)は古河市内まで避難した。「カスリーン台風では水が1階天井まできた。今回は、治水対策が進み被害はなかった」。埼玉大橋に近い同市佐波の山本哲也さん(79)は「カスリーン台風の時は床上浸水1メートルくらい。今回は被害はほとんどなかった。それでもSFAフットボールセンターまで避難した」と話した。

 市は5月に「地震ハザードマップ」と「水害時の避難行動マップ」を全戸配布し、各地で説明会を開催。バスによる広域避難や防災講演会も複数回実施した。市危機管理防災課は「防災意識の向上につながった」としている。

 市治水課は「カスリーン台風の教訓から首都圏氾濫区域堤防強化対策が進んでいる。それでも、堤防や施設で防ぎきれない災害は発生するとの考えで、市では広域避難を重要視している」と市民の大規模な避難行動を説明する。

 一方で、避難勧告をしないままの避難指示だったことから、一部住民からは「真夜中の避難指示は適切だったのか」と疑問の声も出ている。

 「カスリーン台風の時は濁流で家が流された」と話す同市砂原の砂賀幸夫さん(92)は知人の車に乗せてもらい、原道小学校の体育館に自主避難した。「真夜中に避難指示が出るとは思わなかった」と振り返った。

 市危機管理防災課は「本部では避難指示発令は午前4時ごろとみていたが、予想より早く危険水位に達した。真夜中の避難が危険なのは確か。何事もなかったのは幸いだったが、課題が残った」としている。

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