埼玉新聞

 

やめて!「遺跡で宝探し」…法に触れる可能性も 想定外の行為に「無断掘削禁止」 埼玉県がSNSなどで警告

  • 見物客に向けに環境整備した根古屋城跡を紹介する横瀬町歴史民俗資料館職員の小泉昇一さん=5月24日、埼玉県横瀬町横瀬

    見物客に向けに環境整備した根古屋城跡を紹介する横瀬町歴史民俗資料館職員の小泉昇一さん=5月24日、埼玉県横瀬町横瀬

  • 深田芳行さんらが根古屋城跡で掘り起こした遺物=埼玉県横瀬町歴史民俗資料館

    深田芳行さんらが根古屋城跡で掘り起こした遺物=埼玉県横瀬町歴史民俗資料館

  • 見物客に向けに環境整備した根古屋城跡を紹介する横瀬町歴史民俗資料館職員の小泉昇一さん=5月24日、埼玉県横瀬町横瀬
  • 深田芳行さんらが根古屋城跡で掘り起こした遺物=埼玉県横瀬町歴史民俗資料館

 埼玉県選定重要遺跡に指定されている秩父市荒川日野の「熊倉城跡」内で5月、男性2人が無許可で土を掘り起こす動画を動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿した。県文化資源課は投稿者に対し、「文化財保護法に違反する恐れがある」と警告。後日、交流サイト(SNS)や現地看板で、「遺跡の無断掘削禁止」を呼びかけた。県内の発掘調査関係者は「このような行為が、今後も広まってしまうのではないか」と危惧し、行政機関に文化財保護の周知徹底を求めている。

 動画には、戦国時代に築かれた熊倉城の遺跡周辺で、男性2人が「宝さがし」と称し、金属探知機を使って土をスコップで掘り返す様子が映されている。視聴者から県に問い合わせが入り、同課は5月15日にSNSでこの動画に言及。投稿者は後日、「ハンドシャベル程度は文化財保護法違反に当たらないと認識していた」などと自身の見解を示し、謝罪した。

 同課によると、県選定重要遺跡は現在県内に161カ所あり、遺跡で発掘(掘削)する際は、県に事前に届け出なければならない。埋蔵文化財包蔵地(遺跡)に指定されていない場所でも、遺跡周辺に調査範囲を広げて発掘を行う場合は、各市町村に事前の届け出が必要。大学など専門機関による発掘を想定しているため、注意喚起の看板は設置していないという。

 県埋蔵文化財や横瀬町指定史跡に認定されている「根古屋(ねごや)城跡」(同町横瀬、1590年開城)で発掘調査を行ってきた元町職員の深田芳行さん(70)は「宝探しを目的に遺跡を掘る行為は、全く想像していなかった」と、熊倉城跡の発掘動画を見て表情を曇らせる。「考古学の専門家や自治体の埋蔵文化財担当者でなければ、遺跡を掘ることはできないのが常識」。

 深田さんは、町教育委員会が運営する歴史民俗資料館に約30年間勤務。学術調査の一環で、2009~12年の期間、同城跡内約450平方メートルで発掘作業を行った。毎回、町教育委員会教育長宛ての発掘届を県に申請し、調査報告書を作成してきた。

 同城跡の発掘調査は、町の文化財や歴史的価値を地域外に発信し、地域活性化を図ることが目的。町は08年に、根古屋城跡公園整備事業を計画し、一般客を呼び込むための遊歩道を設置した。深田さんらが掘り起こした戦国時代の中国染付や縄文時代の石器など計50点以上の遺物は、現在も町で保管し、一部を同資料館で一般公開している。

 深田さんは「今回の件で、文化財の重要さが人々に浸透していないことを改めて感じた。行政関係者は、講演活動などに力を入れ、文化財を保護する大切さを国民に広めてほしい」と語った。

 同城跡は、「無断掘削禁止」の注意板を設置していないが、同資料館職員は「遺跡は国民共有の大切な財産。文化財の重みを一人一人が心に留め、保護法に反する行動は控えてほしい」と切に願っている。

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