大宮は「実家のような存在」…ウケたことのない変わったネタ披露も 大宮で力磨き続ける囲碁将棋
大宮ラクーン吉本劇場(さいたま市大宮区)のユニット「大宮セブン」に所属する漫才コンビ・囲碁将棋(文田大介・根建太一)。今年新設され、5月20日に放送された、結成16年以上の漫才師たちによる漫才賞レース「THE SECOND2023」において、見事ベスト4に輝いた。結成19年を迎えてもなお、漫才を磨き続ける2人にとって、「大宮」とはどんな存在なのか、埼玉新聞の取材に応じてくれた。
■THE SECOND最速の出場表明 きっかけは娘の挑発
―囲碁将棋のお二人は「M-1グランプリ2019」以来の漫才賞レースへの出場。久しぶりの大会の場はいかがでしたか。
文田 まだ大会の規模が分からない状態だったので、緊張しないかなと思っていましたが、予選が始まり舞台袖に行くと、めちゃくちゃ緊張しました。スピードワゴンさんや二丁拳銃さんなども、見たことのない顔をしていましたね(笑)。僕らはまだ賞レースが終わって3年程しか経ってなかったので、まだ感覚を覚えていましたが、先輩方は最後の賞レースからもっと期間が離れていたから、尋常じゃなく緊張していたと思います。
根建 自分には欲がないと思ってました。だけど緊張するってことは、「勝ちたい」という欲があるってことじゃないですか。だから自分が嫌いになりました。俺も欲しがるんだな、緊張しているじゃんと思って。
―大会初開催で、まだ規模感や大会自体の価値が定まってない中、文田さんはSNS上で誰よりも早く出場宣言をしていました。
文田 大会開催発表の4日前、家族でM-1グランプリを見ていた時に、当時小学1年生だった娘に「パパこれ出ないの?」と聞かれました。以前は出場していて決勝進出できなかったこと、そして出場資格がないことを説明しても分からないじゃないですか。だから「まあ出てないけどね」と言ったら、「パパも出たらいいのに」って挑発されたんですよ。
根建 挑発はしてねえだろ。
文田 そこから4日後にちょうど開催発表の告知を見たので、10分以内に「出ます」って表明しました。挑発されたので。
根建 僕は相方の参加表明をSNSで見て知りました。
■同点で惜しくも敗退 衝撃のジャンケンルール
―ギャロップさんとの準決勝では、284点という高得点で同点。しかし大会の規定の結果。惜しくも敗退という結果になりました。
文田 ギャロップさんの得点が出る時、ずっと頭の中で計算をしていたのでリアクションをうまくとることができませんでした。実は予選時のルールだと、同点かつ票の配分も一緒だったら、「どっちが面白かったか」で再投票だったのです。それが50対50だったら、「ジャンケン」でに決着となっていました。でも決勝はそうもいかないので、ジャンケンの代わりに。会場にいる誰かを指名して、その人が勝敗を決めるというルールだったのです。アンバサダーの松本(人志)さんや、司会者の東野(幸治)さん、カメラマンさんでも誰でもOKでした。
根建 おそらく、公表されていないルールです。もしかすると企業秘密かもしれない。
―ルールに関しては事前説明があったからこそ、すんなりと受け入れることができましたか。
文田 色々な意見があったと思いますけど、そこに関しては何も思わなかったです。自分たちの点数が高ければいいなと思っていたけど、そのあとの勝敗については、意外とどちらでもよかったです。
根建 単純に284点という高得点が出たことが、何よりもうれしかったです。
―ギャロップさんとマシンガンズさんの決勝戦は、どのような心境で見ていましたか。
文田 「吉本がお笑い界で一番でなきゃいけない」という、極真空手みたいな部分が強いのです。だからギャロップさん側の袖に集まり、「絶対に勝ってください」と伝えていました。僕らがマシンガンズさんに負けてても、ギャロップさんの応援に行ってましたね。
根建 同じ事務所で、直属の兄さん(先輩)ということもあるので。
文田 どちらが優勝するかで、来年以降の大会の雰囲気が変わってくると思いました。マシンガンズさんが優勝しても「漫才」だと思いますが、ギャロップさんのような、いわゆる「王道漫才」に映る人が優勝して、かつ事務所の先輩だったので、喜びもひとしおでした。
―囲碁将棋のお二人が決勝に進出していても、きっと「王道漫才」に映っていたと思います。
文田 だけど僕たちが決勝に進出していたら、きっとマシンガンズさんが優勝していたのかなとも思ったりしています。
■来年も出場宣言 増していく大会の「厚み」
―もし「THE SECOND2024」の開催があったら出場しますか。
根建 出場したいです。お客さんも出場資格のある全芸人に出てほしいと思っているんじゃないですかね。
文田 うん、僕も全員に出てほしい。1回目で様子見の人たちが、2回目に出場することも考えられるので、単純に出場資格を新たに得る人たちも出てきます。
根建 今年が「M-1グランプリ」ラストイヤーの人たちが、来年は「THE SECOND」に出れますからね。
―大会の厚みが増していく中、出場するからには早めに優勝したいと思うのでしょうか。
根建 優勝できるに越したことはないですよね。
文田 せっかくなら層が分厚い時に、「今年はすごい出場数だったじゃん」という時に優勝したいです。まあ今年優勝できていれば、それはそれでよかったんですけどね。
■漫才に住み続ける囲碁将棋 大宮は「実家」
―事務所(吉本興業)での劇場出番数ランキングは第2位(2022年))。舞台での場数が、今回の結果につながったと感じていますか。
文田 絶対そうだと思います。漫才は「家」と一緒で、ずっと使っていないと、家の中って傷んでいくじゃないですか。劇場に立ち続けたことで、人が住み続けていたというか…例えがあまりしっくり来てはいないですけど。(笑)
根建 なんとなく分かります。人が住んでいないと。
文田 ネタよりも「人」の方が大きいと感じていて、お客さんも僕らを「ずっと舞台に立っている人」だと思うはずです。正直、世間的には無名ですけど、予選では日頃からお笑いを見に来ていただいている方々の中で戦えたので、かなり応援していただきました。
―お二人は「大宮ラクーンよしもと劇場」だけでなく、各地の劇場にも出演されています。大宮とそれ以外の舞台ではなにか違いはありますか。
文田 大宮の劇場に立つ時はほぼスーツを着ていません(笑)。良い意味で実家みたいなものですね。
根建 たしかに自宅という感覚です。
文田 大宮以外の現場に行くと、一番良いネタを一番良い服で一生懸命やるんですけど、大宮は「自宅」なので、ウケたことのない変わったネタや新ネタを試していたりします。
根建 リラックスして素が出せる場所です。支配人の方も「別にいいよ」っていう感じで。
文田 大宮セブン結成時の支配人が、「お笑いのことはなんでも試してください」と言ってくれて、「ウケた、ウケていないはいいので」と断言してたのです。だから大宮セブンのメンバーは皆、賞レースに強いのです。
根建 大宮でずっと続けているのは大きいと思います。
―今後も大宮セブンとしての活動は継続していくのでしょうか。
文田 大宮セブンのメンバーは誰も辞めないはず。マヂカルラブリーがM-12020王者になって、毎日のようにテレビ出演している。マヂカルラブリーが所属しているのに、辞める理由とかないですよね。
根建 辞めるっていう選択肢は全くないです。辞めたことによってのメリットって、無いじゃないですか。
文田 そもそも「大宮セブン」は、上位に入れない人たちがたどり着いた場所。本当はここから一日でも早く抜け出たいという人たちの集まりでした。だから、マヂカルラブリー、すゑひろがりず、ジェラードンとかは、もう抜けててもいいと思うんですよ。だけど大宮が「家」みたいになってしまっているのです。
―「大宮セブン」に入りたくて入ってはいないけど、いざ入ったら出たくなくなってしまったということですか。
文田 そうです、「大宮セブン」というユニットの中に、それぞれのコンビ・トリオがある感じですかね。たぶん吉本辞めても、「大宮セブン」にはいると思います。
根建 いや、いれるんだ。
文田 ジャニーズとかだと退所したらグループ解散するじゃないですか。僕は吉本退所してもここにいます。
―「大宮セブン」でいることは「メリット」が多いと。
根建 たぶんメリットもデメリットも、誰も感じていないです。損得感情がまるでない。スラムダンクでいう「湘北高校」みたいな感じ。キャプテンのゴリが「ありがとな」って言ったら、周りが「お前のためにやってんじゃねえ」って怒ってたじゃないですか。そういう感じ。
根建 誰かが「ありがとな」って言ったら、みんなが「なんでだよ」ってなります。その空気感こそ、大宮セブンの魅力ですかね。
―お二人とも、ありがとうございました。
■囲碁将棋
2004年結成。18年に大宮セブン加入。文田大介さんと根建太一さんのコンビ。高校の同級生で、2人が囲碁将棋部に所属していたことがコンビ名の由来。11、14年にTHE MANZAIファイナリスト。THE SECOND2023ベスト4。
■大宮セブン
笑いの聖地を「大阪」から「大宮」にすべく、「大宮ラクーンよしもと劇場」(さいたま市大宮区)を拠点に活動する、吉本興業所属のお笑い芸人6組で構成する集団。22年春からテレビ埼玉などで初冠番組「それゆけ!大宮セブン」が放映されている。