<新型コロナ>技術と余った部品でフェースシールド、川口の町工場が開発 医療崩壊防ぐものづくりの魂
川口市の小さな町工場が、医療従事者たちが新型コロナウイルスの感染から自身を防護するために使うフェースシールドを独自に開発し4月末、栃木県内の公立病院に納入された。医療従事者の防護セットが不足していることを社長が会員制交流サイト(SNS)で知り、市内のIT企業と連携することで開発につなげた。IT企業側は「何でも作れる町工場の底力を見た。医療崩壊を防ぐ力になる」とたたえている。
町工場は川口市前川の「野崎真空樹脂工業」。野崎徹社長(46)をはじめ従業員は約20人で、真空樹脂成型機5台を所有する。病院と同社を取り持ったのが同市仲町に本社を置くIT企業の「ポラスタン」だ。
医療現場での不足が指摘される防護服。医療従事者らがごみ袋で代用していることなどを知ったポラスタンの役員辻仁美さんが、SNSで「何とかしたい」と4月21日に発信したことが両社の連携のきっかけだった。
その日のうちに栃木県内の公立病院の医師から「俺たちは捨て駒。防護服があったら欲しい」とうめくような声が返ってきた。すると翌22日、「うちでこういうのを作っています」と写真付きのメールが飛び込んできた。写真は医師たちが欲しがっているフェースシールドで、発信者は野崎さんだった。
「これが欲しかった。5月中旬までに作ってほしい」。辻さんが打ち返すと、その日のうちに野崎さんが試作品を持ってポラスタンを訪問。それから、野崎さんが改良を加えた試作品を連日持ってきた。
馬てい形にしたプラスチック製アームに、透明のプラスチック板を取り付けた構造。頭部に装着し目の上から顎の下までを板の部分で覆うことで、対面する相手からの飛沫(ひまつ)を浴びるのを防ぐ。
4月28日には製品が完成し、その日のうちに30セットが栃木の病院に納入された。
「たまたま自動車部品製造に使い、余ったプラスチック板が工場内にあったのを活用した。叔父の工場長と『リサイクルに回そうか』と話していたところ、これが役に立った」と野崎さん。頭部に固定するための部品は市内の知り合いの工場が「うちにあるよ」と提供してくれた。ポラスタンの菅克己社長(54)は「今ある材料と技術で作ってくれた。川口のものづくりの魂、英知がここにあった」と喜ぶ。
野崎さんが経営する工場は、戦前に祖父の清太郎さんが始めた青果店がルーツ。父勝利さん(79)と弟の清さん(72)が昭和30年代に青果店の脇でプラスチック成型の工場を始めた。その当時からのプラスチック真空成型機が今も工場の一角で現役で動いている。「この機械は家の宝物です」と野崎さんは胸を張る。