偏見…「怠け」「甘やかし」は誤解 誰でもなりうる“ひきこもり”深刻、15~64歳で増え146万人に 80代の親、50代の子を支える「8050問題」も 「本当は外に出たい」ゴールにしてはいけない“就労”
ひきこもり当事者らへの支援を広げようと、「ひきこもり VOICE STATION 全国キャラバン」(厚生労働省主催)が14日、さいたま市内で開かれた。ひきこもりの元当事者や支援団体の関係者らが、パネルディスカッションに参加。社会とのつながりの大切さ、理解の促進、一人一人の回復の歩み方などについて、意見交換した。
国の調査によると、15~64歳までのひきこもり当事者は増加傾向にあり、約146万人に上る。高齢化により、80代の親が50代の子を支える「8050問題」も深刻化する恐れがある。「怠け」「親の甘やかし」などの誤解や偏見も依然としてあるという。ひきこもりは誰にでも起こりうるとして、当事者らの思いに触れ、理解を深めようと企画された。県内での開催は初めてで、12月までに京都市や金沢市など5都市で開かれる。
パネルディスカッションには、春日部市の一歌さん(35)が元当事者として参加した。トランスジェンダーで、幼い頃から性別に違和感があったという。不登校をきっかけに、中学時代の14歳から10代後半まで、ひきこもりを経験した。「当事者は好んで、ひきこもっているわけではない。どうしていいか分からず、葛藤がある」と訴えた。
父親から夜の散歩に誘われ、少しずつ外出できるようになった。「本当は外に出たかった。4、5年ぶりの外出は当時、すごく感動した」と振り返った。「父も母も優しく、いつも応援してくれた。親も当事者も焦ってしまう。一歩ずつ一歩ずつがいいのかなと思う」と話した。
NPO法人「KHJ埼玉けやきの会家族会」の田口ゆりえ代表理事(74)は、次男がひきこもりを経験している。「原因は一つではない。家族主義の背景が大きく、恥の文化でどこにも相談できないことが大きい」と指摘。「就労をゴールにしないこと。本人も家族もつらく、親子の関係が悪くなる。自分がやれることを少しずつ積み重ねていくことが大切。官民、民民による支援のネットワークを広げることも必要」と提言した。
■子を信じた親「社会のつながり大事」
一歌さんの母良子さん(64)はパネルディスカッションの様子を見守り、「ひきこもっていた時を思うと、考えられない」と取材に話した。ひきこもり始めた当初は、どうしていいか分からなかったものの、部屋に閉じこもることはなく、会話はできていた。
ある日、「桜を見に行こうか」と誘うと、「行く」と答えた。夫と一緒に喜んで車に乗り、古利根川沿いの桜を車内から見たという。間もなく父子の夜中の散歩が始まった。KHJへの相談も支えになった。両親が親の会に、一歌さんは当事者の会に参加した。良子さんは「社会とのつながりがすごく大事」と語った。
田口さんが今回のイベントに、一歌さんを誘った。「本人のつながりたいという思いと、両親が子どもを信じて後押しした」ことから、早い段階で脱したと思っている。病気で倒れた父親の介護のため、一歌さんが相談に訪れない時期が長く続いた。田口さんは定期的に連絡を取り、良子さんも相談に訪れていた。田口さんは「どこかにつながり、関係を途切れさせなかったことが大きかった」と話していた。