埼玉と海つなぐ…朝霞・黒目川でアユの産卵始まる 酷暑も越え「いつもより元気」 漁協などが「川耕し」
埼玉県朝霞市の黒目川でアユの産卵が始まった。新座在住で長年、黒目川の魚類保護に取り組む佐藤正康さん(37)が今月7日に今年初めて卵を発見、観察を続けている。18日には県南部漁業協同組合(漁協)と県水産研究所職員らが協力して、アユの産卵を支援するために川底を整える「川耕(かわたがや)し」を行った。
■環境保全活動の成果
アユたちは春に東京湾から遡上(そじょう)し産卵して一生を終える。卵から生まれた体長3ミリ前後の仔魚(しぎょ)たちは新河岸川、荒川を経て東京湾へ流れ下る。仔魚の流下は10月から12月まで続く。仔魚は東京湾の沿岸地域で稚魚に育つ。
翌春の彼岸ごろに稚魚は荒川や多摩川、江戸川を遡上する。さいたま市在住の魚類研究者、金沢光さん(70)は「アユは海と埼玉をつなぐ貴重な存在。市民や漁協の環境保全活動の成果が上がっている」と話す。
「今年は酷暑だったが、川の中のアユはいつもより元気。見ていて楽しい」と佐藤さん。佐藤さんによると、黒目川には新座の石神橋の場所に大きな落差があり、例年はそれより上流にはあまり上がらない。しかし、今年は6月の大雨で水流が多かった日があり、石神橋の落差を元気なアユが上ったといい、石神橋の上流でもアユが見られた。
「夏には地表から水流が消える瀬切れ現象が起きる入間市の不老川でもアユが確認され、地元の環境市民団体の人たちが見守っている」と佐藤さんは語る。
■2007年に仔魚発見
黒目川は、小平市を起点に東久留米、新座、朝霞市を流れ新河岸川に合流する約17キロの1級河川。高度成長期に水質は悪化したが、その後、公共下水道整備が進み、沿線には自然の湧き水が多いことから近年は水質が改善し東京湾から荒川を経由してアユの遡上が見られるようになった。
2007年10月、当時、県環境科学国際センターの環境担当部長だった金沢さんが黒目川でアユの仔魚を捕獲し産卵も確認した。その後、11年11月に佐藤さんが産卵の様子を動画に撮影することに黒目川で初めて成功した。
佐藤さんは県南部漁協に所属し漁場監視員も務める。子どものころから黒目川に親しみ、所沢市の柳瀬川、和光市の白子川などの自然環境保護にも取り組んでいる。
■川耕し
東武線鉄橋付近の黒目川で18日、江口博理事長(75)や佐藤康正さんら県南部漁協メンバー4人と、県水産研究所専門研究員の大力圭太郎さん(40)ら3人が協同して黒目川の川底の産卵床を改良する作業「川耕し」(かわたがやし)を行った。
圧力をかけた水ポンプやクワなどを使い、川底を掘り起こし、大きな石を取り除いたり、泥を洗い流したりして川底を改良した。
佐藤さんは仕事の合間に川の見回りを続けているが、21日、川耕しの現場でアユの卵を見つけ、産卵していることを確認した。
県内でどれほどのアユ産卵場があるのか。県水産研究所でも「調査をしていないので全体像は分かっていない」としている。
実際に歩いて調査をしている金沢さんによると、利根川は本庄市内、荒川は熊谷市内に産卵場所がある。入間川は川島町、都幾川は東松山、高麗川と越辺川は坂戸市内でそれぞれ産卵場所が確認されているという。