埼玉新聞

 

元警部補を在宅起訴 熊谷小4死亡ひき逃げで遺品紛失、捜査書類を破棄

  • 元警部補を在宅起訴

 熊谷市で2009年に小学4年の男児が死亡した未解決のひき逃げ事件に絡み、県警が証拠品として保管しながら紛失した男児の遺品の腕時計に関する捜査書類を破棄するなどしたとして、県警交通捜査課の男性元警部補が書類送検された事件で、さいたま地検は公文書毀棄(きき)の罪で、上尾市、会社員で元警部補の男(62)=定年退職=をさいたま地裁に在宅起訴した。虚偽有印公文書作成・同行使容疑については不起訴処分とした。処分はいずれも17日付。地検は裁定主文や処分理由を明らかにしていない。

 起訴状などによると、男は15年9月中旬ごろ、死亡ひき逃げ事件の証拠品として熊谷署に保管されていた腕時計の紛失が発覚することを免れるため、腕時計1個など証拠品11点に関する任意提出書と領置調書をシュレッダーにかけて破棄したとされる。

 腕時計は事故当時に男児が身に着けていたとみられるもので、県警が証拠品として押収。18年10月ごろ、捜査の過程でなくなっていることが発覚し、県警は昨年1月、紛失を認めていた。

 その後の調べで、紛失に関して男が書類を作り替えていた疑いが浮上。男は当初、県警の調べに、「腕時計を遺族に返却したように装うため」と話していた。県警は同年9月、虚偽有印公文書作成・同行使と公文書毀棄容疑で、男をさいたま地検に書類送検した。

 ひき逃げ事件は09年9月30日、熊谷市本石の市道で発生。自転車で帰宅途中だった小関孝徳君=当時(10)=が車にはねられて死亡した。

 事件を巡っては16年に道交法違反(ひき逃げ)罪の時効が成立。一方、県警は自動車運転過失致死罪(当時)の時効成立が目前に迫った昨年9月、適用罪名を危険運転致死罪(当時)に変更して捜査を継続すると明らかにした。これにより時効は10年間延長され、29年9月30日午前0時となった。

 県警はこれまでに、証拠品の紛失や元警部補の行為に対する責任があるとして、当時の上司らを訓戒や注意処分としている。

■母親「真実知りたい」 熊谷市で小学4年の男児が死亡した未解決のひき逃げ事件で、証拠品に関する書類を破棄するなどしたとして、公文書毀棄罪で元警部補の男が起訴された。男児の母親は、これまで腕時計の紛失や警察官の関与についての思いを積極的に発言していなかった。それは「何よりも犯人の逮捕が最優先だと思った」から。虚偽有印公文書作成・同行使容疑については不起訴処分となり、「どちらも起訴してほしかったが、真実を知りたいという気持ちは変わらない。裁判で追及してほしい」と率直な思いを述べた。

 母親は時効まで約1年となった2018年10月、事故当時から続けてきた車のナンバー調べの情報を提供するために署を訪れた。応対した警察官に、時効が成立した際には、証拠品が遺族の元に返されることなどを確認し、腕時計の話をしたという。

 紛失の事実を告げられたのはその数日後。自宅に訪れた警察官から紛失したことを聞かされ、謝罪を受けた。

 「私たち親子にとって大切な腕時計だったのに」。言葉にならなかった。腕時計は孝徳君の10歳の誕生日に母親が贈ったもの。小学4年でスイミング教室に通い始めたことなどをきっかけに、一人でバスに乗らなければならない息子のため、「時間の管理ができるように」と親子2人で買い物に出掛け、プレゼントしたものだった。

 事故当時、被害者が孝徳君本人であることを母親が判断する際の根拠にもなるほど、重要な物だったという。

 県警は昨年1月、腕時計の紛失を明らかにし、9月には罪名変更により、捜査が継続されることになった。

 時効は延長されたが、母親の元に寄せられる情報は激減。多い時には月40件近くあった情報提供は今年2月以降、1桁台に。母親は「ここから先は情報提供がなければ動けない。県外に逃走した可能性もあるので、県内に限らず、県外でも不審車両などあれば、情報提供に力を貸してほしい」と協力を呼び掛けている。

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