流血の教諭、必死で生徒守る…教室に乱入した17歳、何度もナイフで切ってきた それでも飛びかかった教諭、重傷を負うも生徒に指一本触れさせず 長時間の手術を乗り越え、教諭が職場復帰 市長が表彰「自分だけの力ではない」称賛の嵐
戸田市立美笹中学校に今年3月、刃物を持った当時17歳の少年が侵入し、男性教諭を刺した事件で戸田市は3日、けがを負いながらも生徒を保護した60代男性教諭を特別表彰した。表彰状が10日、菅原文仁市長から男性教諭に手渡された。
事件は3月1日に発生。男性教諭は教室に侵入した少年にナイフで複数箇所を切り付けられ重傷を負ったが現在は職場復帰し、市内中学校に勤務している。
事件を受け市は美笹中学校をはじめ、市内全小中学校に警備員を配置し、事件事故の発見や防止に努めているほか、安全確保のため、学校玄関のオートロック化、敷地周囲のフェンス設置を進めている。
表彰状を受けた男性教諭は「自分だけの力ではなく、学校のチームワークで生徒に被害者が出なかった」とコメント。菅原市長は「勇敢な行動により生徒への被害が未然に防がれたことは幸い。先生は手術・入院を要するけがを負われ、改めてお見舞い申し上げ、現在、教壇に復帰されていることをうれしく思う」とコメントした。
■少年襲撃のとき何が起きた まひ残る教諭、同僚もダメージ(以下、7月16日掲載記事から一部抜粋)
試験監督中は教室の後ろに立ち生徒を見渡すのが男性教諭(60)の常だった。生徒は隠し事ができず、緊張感があるからだ。埼玉県戸田市立美笹中学校、3月1日正午過ぎ。その時、私服姿の小柄な少年が静かに入ってきた。空いた机に荷物を置き、手を入れている。「不登校の生徒か、卒業生が入ってきたのか」。状況を把握できなかったが、このままにはしておけない。教諭が退室を促そうと少年に近づいた時、脇腹に衝撃が走った。ナイフが少年の手に握られていた―。
教室の後方で教諭が切り付けられた時、少年の背後には生徒たちがいた。教諭はとっさに生徒の方に向き直った少年を羽交い締めにし、「先生たちを呼んできて」と叫び、生徒たちを逃がした。
教室を出た少年を追った教諭が「刃物を持っている」と知らせると、近隣の教室は生徒を守るため内側から施錠。少年に追い付き、もみ合いとなった教諭は再び切り付けられた。しかし廊下の両側から数人の男性教諭が駆け付け取り囲むと、少年は抵抗をやめ座り込んだ。その後、刃物を取り上げられた少年を隔離する人と、負傷し流血する教諭に付き添う人に分かれ、ある同僚教諭は自らも血まみれになりながら止血を手伝ってくれた。
複数箇所を切り付けられた教諭は重傷を負った。8時間に及ぶ手術や入院を経て教壇に復帰したものの、左手にまひが残っている。連携して冷静に対処した教員らも、見えないダメージを負っていた。現場に居合わせた同僚の中には、生々しい情景がフラッシュバックして心療内科に通院したり、しばらく眠ることができなかった人がいたという。
■少年院に送致、致命傷あと数センチだった「自分の問題と向き合い始め、矯正教育の効果期待」(以下、7月4日掲載記事)
2月に戸田市で猫1匹を殺害し、3月には同市の中学校で男性教員をナイフで刺し殺害しようとしたとして、殺人未遂と動物愛護法違反容疑で家裁送致された元少年(18)について、さいたま家裁(加藤学裁判長)は7月3日までに、初等・中等(第1種)少年院送致とする保護処分を決めた。決定は6月30日付。
決定理由で加藤裁判長は、殺人未遂事件について「他者の生命身体を顧みない身勝手かつ理不尽なもので、非常に悪質。あと数センチ深く刺していれば致命傷になり得た」と指摘。猫を刺殺した事件に関しても「殺した上、足や顎を胴体から切断した行為は残虐で足や顎を人目に付く場所に置いた」と説明し、「本件は世間の耳目を集め、社会に大きな衝撃を与えた」と述べた。
その上で「殺人未遂は検察官に送致することも検討の対象となり得るが、一連の手続きの中で自己の問題性と向き合い始めていて、矯正教育の効果が期待できることを考えると保護処分に付すべき」と指摘。少年院に3年収容し、矯正教育も2年6カ月程度が必要と見込まれるとした。
決定などによると、元少年は2月12~13日午前7時半ごろ、戸田市の道路付近で猫1匹の頸部(けいぶ)を刃物のような物で突き刺すなどし殺害。3月1日午後0時20分ごろ、戸田市立美笹中学校で試験中だった教室に侵入し、男性教員=当時(60)=の胸や腹などをナイフ(刃渡り約13・3センチ)で突き刺し、加療約6カ月を要する重傷を負わせた。