暗くつらい…在宅介護を楽しんでしまえ ユーモアたっぷりの介護実践、「認知星人じーじ」が書籍化
埼玉新聞本紙で1年以上にわたり連載していた「認知星人じーじ~『楽しむ介護』実践日誌」が書籍化された。在宅介護を巡る数々のエピソードに、作者の黒川玲子さんが家族関係や背景などを解説として加筆し、海竜社から出版された。
連載は、アルツハイマー型認知症と診断され、要介護3で92歳を迎えた父親と家族の体験記。「とかく、暗くつらいイメージがある在宅介護を楽しんでしまおう」という内容で、昨年4月から今年4月末まで55回にわたり毎週、本紙生活情報・医療面に掲載していた。
黒川さんは、県内で福祉事業所を多数運営する介護事業社勤務の経歴があるものの、「親の介護を甘くみていた」という。「最初はいらいらしっぱなしで、ストレスもたまった。半年ぐらい大声を上げたり、怒っていた」と明かす。
「認知症の人が言うことを否定してはいけませんと教わるが、365日一緒にいる家族には難しい」と痛感した黒川さん。父親の様子をつぶさに観察していると、おかしな行動や言葉を発する前の異変に気付いた。「遠い星と交信しているように見えたので『認知星人』に変身したと思うようにした」という。ユーモアたっぷりの介護実践はそこから始まった。
記事の中によく出てくる「ピカッとひらめいた」の言葉。「どうしたら怒らないで済むか」を考えあぐねた結果、作戦を思い付いたときの表現だという。
読者からの反響も多かった。母親が認知症になったという、さいたま市浦和区の会社員男性(45)は「徐々に物忘れをするようになり料理ができなくなるとともに、何事にも意欲が湧かない。コロナの影響もあって父と四六時中一緒なので、夫婦仲が険悪に。そんなわが家にとって『認知星人じーじ』は一服の清涼剤だった。認知症の家族との会話をもっと楽しまなくては、と思った。何より認知症の方を大事にする心を学んだ」。義父母の介護をしていたという小鹿野町の女性は「思わず笑えてしまい、楽しみだった。暗くなりがちな介護を上手にこなしている。介護で疲れている人に勇気を届けられるのでは」とメッセージを寄せた。
「認知症高齢者の数は国内で約470万人。家族で在宅介護をしている人も多い。一人で全てを抱えてしまい、介護うつになったり、悲しい事件も起きている」と指摘する黒川さん。その上で「介護が大変なことに変わりはない。大変だと言ったらもっと大変になる。認知症を正しく理解し、視点や向き合い方を変えてみると、本人も安心するし、介護する人も楽になるのではないか」と話している。
同書には、温かいタッチで記事の魅力を表現した長谷川三雄さんのイラストとともに、表情豊かな「じーじ」の写真も掲載している。価格は1350円(税別)。
問い合わせは、海竜社(電話03・3542・9671)へ。