汚い臭いはずのトイレ…イメージ覆す“注目トイレ”誕生 周辺でイベント開催、客が集まり街のシンボルに 次のイベント開催相談も 会社社長が偶然気付いたトイレの可能性 着眼点すごいと話題
人を楽しくさせるトイレが所沢市にある。傍らにはベンチが置かれ、施設を軸にしたマルシェも開かれる。日々の生活に欠かせない施設である半面、とかく避けられがちなトイレ。運営者は「良質な出会いを生む場にしたい」と、新たな「かわや」の可能性に期待を寄せる。
■円形の屋根
藍色ののれんを張った先にはキッチンカーやアクセサリー販売などの店が並び、来場者が食事や買い物を楽しんでいた。同市西新井町で11月18、19日に開かれた「KAWAYA市」だ。
催しの中心には「インフラスタンド」と呼ばれるトイレが据わっていた。
四角柱の形をした建物は高さ約5・6メートルの鉄骨1階で、延べ床面積は約28平方メートル。上部には直径6・4メートルの円形の屋根がついている。引き戸を開けると便器や鏡が設置されている。天井からはライトが下がり、内部を照らす。大きく張り出した屋根の下にはベンチなどが併設されている。
インフラスタンドは、水道整備などを手がける「石和設備工業」の一角に2022年8月、建設された。同社が運営する「公衆トイレ」で、利用時間内なら誰でも利用できる。
社長の小澤大悟さん(47)は当初、自社のPRなどに用いることができるトイレを建てようと、市内の建築家高橋真理奈さん(35)に相談。高橋さんは「公園のように人が集まって休めるような公衆トイレ」を提案した。
小澤さんらは東京都内で商業施設や駅前のトイレを見て回った。恵比寿東公園を訪れた時のこと。しょうしゃなたたずまいのトイレの横にフードデリバリーの配達員が座り、休憩している姿が目に止まった。小澤さんは「トイレがきれいなら、人も豊かになれる。新しいトイレの役割を感じた」。高橋さんの事務所「シン設計室」の設計で完成したのが、インフラスタンドだ。
敷地の近くには西武新宿線が走り、工場や住宅が立ち並ぶ。「雑然とした場所でも埋もれないように、街のシンボルになるような円形の屋根を作った。大らかな場所にしたいとも思い、天井を高くした」。高橋さんは設計の意図を説く。
■マルシェ
KAWAYA市は、11月の開催で3回目を迎えた。相模原市から訪れた男性(44)は「トイレは生活の一部だが、『汚い』とか『臭い』といったイメージで、通常は5~10分ぐらいしかいない場所」と話し、人が集うことを目指したインフラスタンドには「着眼点がすごい」と語る。2日間にわたる催しの夜には、長細い壁面を利用してリキッドライトのインスタレーションを展示。アート空間としての魅力も示した。
インフラスタンドにはKAWAYA市の他にも、イベント開催を希望する相談が持ち込まれるという。高橋さんは「挑戦や出会いの機会になっていると実感する」と語り、「街の機能としてのインフラに加え、コミュニティーやつながりとしてのインフラになってほしい」と望む。
公共物に愛着を持ってほしいとの思いから、小澤さんが思案するのが「建築から設計まで、地域の人が関わったトイレ」だ。「トイレがもたらす経済効果の実現と、コミュニティーがもたらすまちへの愛着を育んでいきたい」と展望する。
インフラスタンドの利用時間帯は平日の午前8時半~午後6時、休日は午前9時~午後5時と設定している。