あまり好きではなかった「家」 でも、やっぱりここが好き 熊谷の料亭「清の家」 母娘で“思い出”守る
埼玉県熊谷市星川にある料亭「清の家」。明治8(1875)年ごろの創業で、旦那衆や地元企業から愛されてきた。現在は完全予約制だが、役員の遠井香芳里(かおり)さん(34)と母親で代表の久エさん(67)が店を守っている。遠井さんは「やっぱりここが好きなんだなと思う」と語る。
遠井さんは同市出身。「子どものころは店が忙しく、近所付き合いの深い地元の人たちに育てられた」と話す。高校生の時に父親が病気で急死し、上智大学を経て、女子栄養大学も卒業した。フリーの料理家として活動し、スパイスの本も発行するなど活躍。現在は占い師ミケとして活動しながら店も手伝っている。
清の家はかつて「清の家会館」とも呼ばれ、約50年前に完成した5階建てのビル。会議室や100人以上が入れる大広間などがあり、ピーク時には1日300人の客が来店したことも。冠婚葬祭を実施したり、芸者も来たりしていた。遠井さんは「うるさいし、誰も構ってくれないし、家のことはあまり好きではなかった」と苦笑いで振り返る。
時代の流れで接待が減り、料亭のかつてのにぎわいは失われた。しかし、古くからの付き合いがある熊谷鳶(とび)組合などの職人や企業関係者などが現在も店を利用してくれている。「広いスペースが好きだと言ってくれる人がいて、皆の思い出も詰まっている。思い出をつぶしたくない」と言葉に力を込める。
約半世紀が経過した建物は維持管理が大変で、老朽化も進行している。現在では珍しい大宴会場を撮影で貸し出すことも行っており、建物の活用方法を模索している。遠井さんは「近所の人が集えるカフェになってもいいし、どんな形でも残していきたい」と話していた。
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遠井さんは18日午後8時から放送されるコミュニティーFM「FMクマガヤ」の「須永公人の週刊フードラボ」に出演する。