埼玉新聞

 

埼玉トヨペット・平沼貴之新社長に聞く 販売再編、新時代に挑戦 レースで培った個性あるブランドは強み

  • インタビューに応じる平沼貴之社長=さいたま市中央区の埼玉トヨペット本社

 100年に1度の大変革期と言われる自動車業界。国内市場が縮小するなか、トヨタ自動車では5月から全車種併売が始まり、販売店にも変化の波が押し寄せている。トヨタ系販売店の埼玉トヨペット(埼玉県さいたま市中央区)では6月、平沼貴之氏(46)が新社長に就任し、新時代に向けた挑戦にかじを切る。系列店同士の競争激化が予想される販売再編への戦略や今後の事業展開について聞いた。

 ―社長就任の抱負は。

 「経営判断を下す最後のとりでになったことに緊張感がある。業界を取り巻く環境や価値観の変化も激しく、顧客の高齢化や若いユーザーの囲い込みは課題ではあるが、拡大路線というよりは、時代に適した小回りの利く会社に進化させ、埼玉の地に存続していく企業にしていきたい」

 ―5月から系列販売店で全車種併売がスタートした。受け止めは。

 「車種の好みやニーズが多様化するなか、全ての系列店で全車種を取り扱える全車種併売は、多様性に応えられる意味でプラスと言える。ただ、トヨペット店が圧倒的シェアを誇っていた専売車種が他店でも販売できるようになるのは痛手だ」

 ―新たな販売戦略や他店との差別化は。

 「『アルファード』や『クラウン』などのトヨタ車を基に独自に開発したオリジナルブランド車を既に3車種リリース。自社のレーシングチームで培ったノウハウも生かした、他の販売店にない個性あるブランドは強みになる。これまで専売車種ではなかった『ヤリスクロス』の販促では、女性客が多いことから、新たな試みとして女性社員だけのチームも編成。狙い通り、効果が出ている」

 ―人気車種に販売が集中し、不採算モデルが削減されていけば、販売店同士の価格競争が予想される。

 「来店客の買い回り(価格の見比べ)は既に始まっているが、チラシ広告で新規客を誘導するような安易な価格競争には与しない。適正価格を提案し、ソフト面での付加価値を高めていきたい。営業本部長時代から言い続けているのは『生涯顧客』を作ろうということ。そのために、接客や商品知識などを共有し合う研修会や、異業種業界での自己研さんなどを通じて、生涯顧客化を実現する組織や人材作りを地道に築き上げてきている」

 ―10月からホールディングスへ体制変更する。狙いは。

 「自動車販売の付帯業務を請け負うグループ3社は、自動車販売の業績に左右されやすい。それぞれが事業性を持つためには、オーナーシップとは切り離し、専門性を有した人材が業務執行できる体制にする必要がある。法人需要が伸びるリース事業は運行管理サービスと合わせて成長拡大が見込めるし、環境問題への関心の高まりで、リサイクル事業も強化の余地があるとみている」

 ―地域に根差したCSR活動にも積極的に取り組む。

 「1976年から継続する苗木の寄贈・植樹活動や、障害者や高齢者などの福祉支援活動などを行っているが、地域と共生していく企業として、弱者を守るのがわれわれの役目の一つ。今の活動を成長させつつ、次のテーマを掲げて新たな地域貢献のチャレンジもしていくつもりだ」

 ―変化の時代に車の魅力をどう伝えるか。

 「車を売って整備するだけでなく、チームを持ち自前車でレースに参戦している。自ら実践し、自分たちの言葉で車を使った楽しみ方を発信していきたい。レースへの挑戦を通じて、顧客に指名されるようなエンジニアのスペシャリストも育成し、ステータスを向上させたい」

 ―座右の銘は。

 「『穏やかな海はよい船乗りを育てない』。自動車業界は今、大時化(しけ)だが、乗り越えた船員はたくましくなる。私自身も100年企業を見据えた時の人材育成や基盤作りの時期と捉え、歯を食いしばって航海している」

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