埼玉新聞

 

貧困の連鎖断つ…困窮世帯の児童に学習支援、生活習慣の改善も 県が取り組み、不登校の児童半減など成果

  • 埼玉県庁=さいたま市浦和区高砂

 貧困家庭の小学生の学習や生活を支援する「ジュニア・アスポート事業」が県内で進められている。公共施設などに児童を集めて勉強を教えたり、生活習慣を改善しており、生活苦や授業についていけないなどの理由で不登校になっている児童が半減するなどの成果が出ている。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で対象世帯を取り巻く環境はより厳しくなっており、支援員らは「子どもたちの貴重な居場所になっている」と貧困の連鎖を断つ事業の重要性を訴えている。

■ジュニア・アスポート事業

 土曜の午後、公共施設の一室で小学生がビニールを切ったり、糸を通すなど手作業に夢中になっている。工作を指導するのは理科が専門の元小学校教諭で、支援員や大学生ボランティアが工作を補助する。完成したミニパラシュートが宙に舞い、ふわふわ落下する光景に、子どもたちは「飛んだ、すげー」と歓声を上げた。

■より早い段階で

 貧困の連鎖を断つ取り組みとして、県は2010年、生活保護世帯の中学生を対象に、高校進学に向けた学習支援「アスポート事業」を始めたところ、対象の生徒の高校進学率が上がり、全国のモデルになった。

 この成果を踏まえ、より早い段階から支援しようと、県は18年から小学生を対象にしたジュニア・アスポート事業を始めた。学習だけでなく、生活習慣や体験活動、食育など「非認知能力」も支援の対象に含まれる。

 現在、県内5市7町で取り組まれているジュニア・アスポート事業は、支援員のサポートを受けながら、困窮世帯の児童が勉強や食事、工作などをしながら過ごしている。

■目が穏やかに

 事業を通じて、目に見える成果が上がっているのは不登校児の減少だ。貧困家庭では生活リズムの乱れで朝起きられなかったり、授業についていけないことから、不登校になる割合が高いとされる。しかしジュニア・アスポート事業による学習支援や規則正しい生活によって、不登校児が半減した。

 教室の立ち上げに携わった支援員の梅田清栄さんは、子どもたちの変化を「引きつっていた目が穏やかになった」と語る。印象的だったのは当初は年齢平均に満たなかった体重だ。生活習慣が改善され体重も徐々に増えたという。「はじめはもやしっ子。学習は二の次で生活習慣やしつけに気を配った。今はみんな元気」と目を細める。

 また、自家用車を持っていない家庭が多いため、子どもの送迎は主に支援員が行っているが、孤立しがちな家庭を訪問して親と面会することは家庭の状況を知る貴重な機会になっている。

 県社会福祉課は「学力の伸びや生活態度の改善など子どもたちに良い変化が表れている。生まれ育った環境によって、子どもの将来が左右されることがない社会を目指したい」と今後に期待を寄せる。

■貴重な居場所

 ただ、今年になって影を落としているのが新型コロナウイルス感染拡大の影響。外出自粛や不況は、不安定な就労が少なくない貧困家庭をさらに揺さぶっている。「親の仕事が減り、子どもたちも引きこもりがち」と懸念を深める梅田さんは「児童にはここが貴重な居場所になっている」と話す。

 10年にわたり県や市からアスポート事業を受託している一般社団法人彩の国子ども・若者支援ネットワーク(さいたま市浦和区)の理事・白鳥勲さんは「子どもたちが学校に通うため、家庭で必要な支援、最低限の条件が分かってきた。個別生活実態の把握と子どもが大切にされる固有の時間が必要」とコロナ禍で苦しい状況でこそ、支援の継続の大切さを指摘している。

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