埼玉と群馬の県境“空港整備”を構想、直接海外と結ばれる可能性 10市町が連携、周辺に半導体や航空宇宙産業の関連企業 近隣にホンダ、スバルの拠点工場も 首都直下地震を見据え、内陸部の空港が非常に重要
埼玉県北部と群馬県南部の両県境の「上武」といわれる地域の10市町が、広域連携による振興策、経済圏としての発展などを目指し、空港整備を構想していることが分かった。具体化に向けた10市町参加による「上武連携構想」がすでに発足しており、意見交換会や専門家を招いての勉強会を開催し、共同歩調を取ることで合意している。参加している本庄市は「上武地域は非常にポテンシャルの高いエリア。この地域が直接世界に開かれ、海外と結ばれるようにしたい」と語る。今後も協議を重ねながら実現に向けた可能性を探っていく。
■生活、文化交流盛ん
同地域は東京から約70~100キロ圏内に位置する。上武という地名こそないが、武州(埼玉県など)と上州(群馬県)にちなんだ名称で、利根川を挟んで向き合った広い地域を指すとされている。養蚕が盛んだった地域でもあり、古くから生活、文化交流が行われてきた。
上武連携構想は2022年に発足。埼玉県からは本庄市、深谷市、美里町、神川町、上里町が参加し、群馬県からは前橋市、高崎市、伊勢崎市、藤岡市、玉村町が入っている。本庄市の吉田信解市長と前橋市の山本龍市長が幹事を務めている。経済圏としての発展を目指すとともに、交通網整備や防災・減災、医療、物流などについて意見交換している。
埼玉、群馬両県は関越自動車道、上越新幹線、国道17号などで通じているが、空港がない「空白県」。旅客者として空港を利用する場合、東京国際「羽田」(東京都)や成田国際(千葉県)、あるいは近隣の新潟、茨城など県外ばかりとなる。特に上武地域から海外へ向かうとなると、吉田市長は取材に「いったんは東京まで出ていかなければならない。ワンクッション入ってしまう」と、既存の空港からは遠方にあるとの考えを示す。
■半導体、近郊型農業
10市町の人口は計約128万人。上武地域には半導体や航空宇宙産業の関連企業が立地しており、近隣にはホンダ(寄居、小川町)やスバル(群馬県太田市)の拠点工場もある。外国人が多く住む地域もある。さらには深谷ねぎに代表される都市近郊型農業が活発だ。空港があれば、半導体部品や高付加価値の食品を空輸することも可能になる。
国土交通省によると、国内には現在97の空港がある。そのうち滑走路が2千メートル以上かジェット機が就航している空港は69。空港の役割としては、(1)国内、海外への人の移動手段(ビジネス、観光)(2)貨物輸送(3)災害時の復旧拠点(4)救急搬送が挙げられる。管理形態としては、国や特殊法人(民間委託)によるものや地方自治体、自衛隊との共用がある。
■期成同盟で促進
昨年11月、群馬県内で開かれた上武連携構想の勉強会では、国交省航空局の蔵持京治航空ネットワーク部長が講師を務めた。蔵持部長は空港を整備するための基本的なプロセスや課題、運用などに関して解説。「半導体などは輸送コストが高くなるので、飛行機で運んでも利益が出る。生鮮食料品でも値段が高いものは貨物性がある」と上武地域に空港を整備する際のメリットについて言及した。
勉強会で山本市長は「上武地域では高度な産業集積が行われている。エリア全体の産業力と拠点性を高めるには、航空ロジスティクスが必要」と強調。吉田市長も「農業、工業が盛んなこの地域に空港があれば、輸送面で大きなパワーを発揮する」と期待を込めた。
蔵持部長は、空飛ぶ車や整備費用を抑えられる垂直離着陸用飛行場「バーティポート」(VP)などを紹介。さらには上里町の山下博一町長が「首都直下地震を見据え、内陸部の空港が必要」と主張したことに対し、蔵持部長は「(空港整備において)首都直下地震の視点は非常に重要」と述べた。
山本市長は取材に「(空港整備に向け)10市町が合意できている。スモールスタートからだんだん拡大し、期成同盟に衣替えしていきたい」と構想している。