秩父三大“氷柱”オープン、大きなサイズ完成 客が5万5千人訪れる観光スポット 今回は暖冬で苦戦、今後も極寒は困難か 氷柱に頼らず、さらなる魅力強化へ新アイデア楽しみ
秩父三大氷柱(ひょうちゅう)(三十槌、あしがくぼ、尾ノ内)は、暖冬の影響で例年より約1週間遅れでオープンした。尾ノ内氷柱(小鹿野町河原沢)は10日以降の冷え込みで太く、大きな氷柱が完成。同実行委員会会長の北孝行さん(80)は7~12日の延期中、毎朝会場に足を運び、氷の成長を見守ってきた。気温に左右される氷柱作りは気候変動の影響を大きく受け、ここ数年は出来が安定しない。北さんは「今後は氷柱事業1本に頼らない観光振興も必要」と、新たな集客の「柱」を模索する。
尾ノ内渓谷の氷柱作りは、2008年に西秩父商工会の青年部会が着手。閑散期(1~2月)に観光客を呼び込むスポットをつくろうと、冬場に氷点下10度まで下がる河原沢地区特有の気候を利用し、渓谷周辺で試験散水を始めた。
最初の2年間は環境整備に苦戦し、氷柱は思うように育たなかった。「当時は地域の不要なホースを回収し、弱い水圧で渓谷の一部で氷柱作りを進めていた。凍っては解けての繰り返しだった」と北さんは振り返る。
安定させるには、沢の水を大量に使用し、渓谷全体を凍らせる必要がある。会員たちは試行錯誤の末、約300メートル離れた沢の上流から水道用ホースを引き、大規模に放水する仕組みを構築した。
足場が安定している夏場に渓谷周囲約250メートルにホースを設置し、12月中旬から散水を行う。「日々の気温変化に合わせて水量調節が必要。均一に凍らせるため、ホースに穴を開けてはふさぐを、昼夜問わず繰り返す」と北さんは解説する。
10年の冬に見事な氷柱が完成。新聞報道をきっかけに県外からも見物客が集まり、年間3万人ほどが訪れる町の冬の風物詩になった。地元団体「よってがっせー委員会」らボランティアの協力もあり、会場づくりは年々規模を拡大。交流サイト(SNS)などでも評判は広まり、19年に過去最高来場数の約5万5千人(推定)を記録した。
コロナ禍と気候変動の影響で、ここ数年は集客が伸び悩む。20年は暖冬により約5千人、21年から3年間はコロナ禍の行動制限が影響し、1万~2万人台の来場者数が続いた。今季は通常開催に向け準備を進めたが、年始の気温上昇で育ててきた氷柱は一気に解けた。
「今年は暖冬に苦しむ予感はしていた」と北さんは苦笑いを浮かべる。昨年は国内各地で記録的な高温が続き、「花の早咲き」や「果実の不作」などで、多くの観光施設がダメージを受けた。氷柱は、寒さが続いてこその観光スポット。「6、7年前は、朝の気温が氷点下14度まで達し、最高の氷柱ができた。近年は氷点下10度に達することは珍しく、おそらく来年以降も極寒は期待できない」と予測する。
同実行委員会メンバーらは、今年も甘酒無料配布やライトアップイベントなどで観光客をもてなしている。北さんは「尾ノ内は、渓谷を一望できるつり橋が見どころ。今後は氷柱ばかりに頼らず、イルミネーション強化などでアピールポイントを増やし、四季を通じて楽しめる観光地に成長させたい」と力を込めた。