広葉樹が枯死、落枝や倒木の危険も ナラ枯れの被害、県内で急拡大 県「樹木に異常あったら一報を」
昆虫の「カシノナガキクイムシ」(カシナガ)が運ぶ病原体が原因で、コナラなどの広葉樹が枯死する「ナラ枯れ」の被害が埼玉県内で広がっている。2019年度に新座市と所沢市の2市で初めて確認された県内被害は、本年度に入って県南部を中心に前年度比5・5倍の11市町に拡大。被害を受けた樹木が枯死すると、落枝や倒木の危険が生じるほか、景観を損なうことにつながりかねない。被害の急拡大を受け、県は11月に市町村担当者向けの研修会を初めて開催。「地域の目」で樹木の変化を早期に発見し、連携して防除や予防を行うことを確認した。
■同心円状に発生
林野庁などによると、全国のナラ枯れの被害量は、32・5万立方メートルだった10年度をピークに、19年度は6万立方メートルと減少傾向にある。一方、被害の発生は10年度が30都府県だったが、19年度には39都府県に増加している。
今年、県内で被害箇所が確定したのは、新座市、所沢市、狭山市、川口市、川越市、入間市、さいたま市、志木市、飯能市、上尾市、三芳町の11市町18カ所。ナラ枯れは発生したものの、被害木から「カシナガ」が見つかっていない場合の「疑い」事例を含めると、県内の被害は16市町41カ所に上る。カシナガの飛翔距離は2キロ程度とされ、同心円状に被害が広がっているとみられる。
県寄居林業事務所の谷口美洋子専門研究員は「関東ではここ数年で一気に被害が広がっている。カシナガは在来種だが、今になって問題が起きているのは、虫が入りやすい大径木が増えているからではないか」と指摘する。
■枯死後5年で倒木も
カシナガの体長は5ミリ弱で、全体は赤褐色。北海道を除く全国に分布している。樹木の外側から内側に向かって直径1・5ミリ前後の穴を掘り進め、卵を産む。この際に病原体の「ナラ菌」が樹木内部に広がることで樹木の通水機能を阻害し、枯死に至らせる。
被害木の特徴としては、樹木内に侵入したカシナガが排出したふんと木くずが混ざった白色の「フラス」が樹皮に付着し、夏でも紅葉のように葉が赤くなる。県内では、公園や里山など比較的人目に付きやすい箇所で被害が発生しているが、県森づくり課は「奥山や人が立ち入らないエリアでナラ枯れが発生すれば、気付かないうちに被害が広がり、影響も甚大になる。今のうちに食い止めたい」と危機感を募らせる。
日本森林技術協会によると、枯死後1~2年で小枝が、3年程度で大枝が落ち、5年後には倒木に至る寝返りを起こす可能性があるとしている。
■広域連携で対策を
県内でナラ枯れの被害が確認されている以上、被害の拡大を防ぐ取り組みが不可欠となる。11月、県が市町村担当者を対象とした研修会を初めて開催し、県内の被害状況を伝えるとともに、カシナガの防除や予防の実習に取り組むなどして、被害拡大防止に向けた意識の醸成を図った。
昨年、県内で初めて被害が確認された新座市の市みどりと公園課の下田尚希さんは「他の市町村と一緒に協力できる体制ができ始めた実感がある。1市だけで取り組んでも他市からカシナガが来たら結局同じ被害に遭うので、被害状況や対策の情報を共有したい」と、広域連携で対策を取る必要性を指摘した。
県森づくり課は、県民に対しても「普段歩いている中で樹木に変化がないかを見て、異常があったら市町村や県に一報をいただきたい。地域の目を光らすことで早期に対応ができる」と呼び掛けている。