埼玉新聞

 

叶わない夢…禁止された就労、住民登録、健康保険に加入できない仮放免クルド人 県内で疲弊、コロナで限界

  • クルド人救済活動への協力を呼び掛ける「クルドを知る会」の松沢秀延会長=2020年12月、さいたま市緑区

 入国管理事務所から仮に釈放されている「仮放免」のクルド人の生活が、厳しさを増している。就労が禁止され、住所登録もできない学生は「将来の夢はあるが、今のままではかなえることができない」と嘆く。埼玉県川口市、蕨市内で支え合って暮らす約2千人のクルド人コミュニティーは新型コロナウイルスの感染拡大で疲弊。生活支援を続ける市民団体は「民間の力だけでは限界」と話し、公的救済を求めている。

 「なぜ私たちに在留特別許可が与えられないのか、一人一人にきちんと理由を説明してほしい」。都内の専門学校に通う川口市のクルド人女性は流ちょうな日本語で訴える。

 女性は12年前に父親の都合で川口市に移り住んだ。中学、高校と日本の教育を受け、難民申請をしているが、いまだに在留特別許可が下りず、仮放免の状態が続いている。

 仮放免者は就労が禁止され、住民登録もできす、健康保険にも加入できない。「県外に出る時には許可が必要など、自由が利かない環境で育ってきた。将来の夢はあるが、学校を卒業をしても、就職ができないので今のままではかなえることができない」

 こうした現状を改善しようと、川口市は昨年12月、仮放免者が就労できるよう制度構築などを求める要望書を法務省に提出した。

 女性は「希望の道の第一歩」と喜びつつ、「国の制度のせいで苦しんでいる人たちは、さいたま市などにもたくさんいる。県全体がもっと外国人、一人一人の現状を知って、制度改善の活動に協力してほしい」と声を上げる。

 女性は現在、市民団体「クルドを知る会」から学費の援助を受けている。同会は2003年から、川口、蕨市内に約500人以上いるとされるクルド人の仮放免者たちに行政手続きの手助けなどを行ってきた。昨年11月には、関係団体と連携してJR川口駅前で「テント村相談会」を開催、クルド人ら約300人の生活相談に応じた。

 仮放免者ではないクルド人の生活も、コロナ禍に脅かされている。松沢秀延会長(72)=草加市=によると、川口、蕨市内には約2千人のクルド人が暮らしているが、職を持つ在留資格者たちの仕事が激減したことで支え合ってきたコミュニティーが疲弊。同会の支援対象者も増えた。

 昨年5月末から、市民団体などと連携し、クルド人家庭に緊急支援金を届ける活動を開始。一般市民の協力もあり、約2千万円の支援金を630人以上のクルド人に分配したが、生活を十分維持できるまでには至っていない。

 松沢会長は「学用品や食品の集積、医療相談、日本語教室の開催など、クルドの子どもたちのためにやるべきことはたくさんある。入国管理制度上、民間の力だけでは限度があり、国や市に動いてもらうしか救済の手立てはない」と話している。

ツイート シェア シェア