危ぶまれた“クルド祭り”無事開催、「公園を貸すな」と電話が相次いでいた…共生に向け前進へ 迷惑行為した一部クルド人を挙げ、クルド人全体への批判増加、名誉を傷つけたとしてフリージャーナリストを提訴も
県南部を中心に約2千~3千人が暮らしているとされるクルド人の新年を祝う祭り「ネウロズ」が20日、さいたま市桜区の秋ケ瀬公園で開催された。今年は同公園での開催が危ぶまれた経緯もあり、日本人を含む多くの参加者が無事に挙行できたことを喜んだ。クルド人に対する風当たりは依然として強い。言葉や文化の壁を超え、一体となって踊った参加者らは「共生に向けて前進する1年にしたい」と抱負を語った。
■輪になって
日本で春分の日の前後はクルドの新年に当たり、その祭りはクルド語で「新しい日」を指す「ネウロズ」と呼ばれている。支援団体「在日クルド人と共に」(蕨市)によると、県内では遅くても2004年以降、場所を変えながら開催されるようになり、県外からも多くのクルド人が訪れるという。
断続的に雨が降る中、会場には色鮮やかな伝統衣装を身にまとった参加者が隣人と指切りのような形で小指を結び、気が付くと300人ほどのつながりは一つの輪に。「ネウロズピローズベ!」(新しい日おめでとう!)と、あいさつを交わしながら、音楽に合わせて小刻みなステップを踏んだ。
16日には蕨市内で踊りの練習も行われ、地域のクルド人や日本人住民など20人が参加。音楽によって数種類ある振り付けについていけなかった日本人の参加者が上手に踊れるようになると、クルド人らは「チョックイ」(とても良い)と褒め、拍手を送った。
練習と当日の祭りに参加した40代の男性会社員は「一緒に踊ると、言葉が通じなくても気持ちのやりとりができるみたいでうれしかった。ネット上ではクルド人を一くくりにさまざまなことが言われているが、一人一人と対話をすれば至って普通の人たちもいる」と話した。
■差別と偏見
昨年から交流サイト(SNS)などで一部のクルド人の迷惑行為を例に挙げ、クルド人全体を批判する声が目立つようになり、蕨市や川口市などではデモも複数回行われた。当事者のほか、同団体の事務所やクルド人らが経営する飲食店などにも向けられ、祭りの会場である秋ケ瀬公園の管理事務所などにも波及した。
祭りの開催を巡り、同団体が同公園管理者の県公園緑地協会に使用を打診したところ、「クルド人に公園を貸すな」という電話などが相次ぎ参加者らの安全を担保できないとして使用を認めない方針を提示。同団体などが抗議すると一転して使用を許可し、「対応に誤りがあった」と謝罪した。
差別や偏見を解消しようと、在日クルド人の当事者団体「日本クルド文化協会」(川口市)で代表理事を務めるワッカス・チカンさん(32)らは11日にX(旧ツイッター)上での投稿により名誉を傷つけられたなどとして、フリージャーナリストの男性に対して慰謝料を求めて東京地裁に提訴している。
19日に東京都内で会見を行ったチカンさんは「クルド人の子どもが学校で『クルド人は帰れ』と言われ、いじめられるようになった」と影響を紹介。「自分にも子どもがいるので不安。この裁判をきっかけに、頭ごなしにクルド人全体を主語にした批判はやめてほしい」と訴えた。
■クルド人 公用語はクルド語。居住地域は、第1次世界大戦後に現在のトルコやイラン、イラク、シリアなどに分裂し「国を持たない最大の民族」とも呼ばれる。少数民族として差別や迫害を受け各国に逃れたが、日本国内では難民として認められたケースはほとんどない。県内では川口市や蕨市などに約2千~3千人が暮らしているとされているが、その大半に在留資格はなく、一時的に入管施設への収容を解かれた仮放免状態。