限界…埼玉県PTA連、脱退が相次ぐ 市町村割合も1/4に急減 組織率は13%、全国的にも珍しい低さに…何があった
埼玉県内の公立小中学校PTAでつくる「埼玉県PTA連合会(県P連)」(比嘉里奈会長)から脱会が相次ぎ、会員組織率が来年度、13・7%になることが分かった。市町村割合も約4分の1に急減。休・退会を決めた市町P連からは、役員負担とともに、「不適切な運営などの不信感が払拭できない」の声が上がる。これほど組織率が低いのは全国的にも珍しく、同会元幹部や県教育局の担当者らは「ガバナンスが利いていない」「全県的な組織をつくり直した方がよいのでは」と指摘している。
■新年度、16市町に激減
歴代の役員によると、県P連はもともと、県内ほぼ全ての地区と市町村P連が加入していた。2000年代前半、政令市となったさいたま市が独立したほか、共済掛け金と積立金の不適切運用や会費を22円から50円に倍以上値上げしたことなどを巡り、西部地域を中心にまとまって脱会。約50%の組織率で運営してきたが、この5年間、毎年のように休・退会が相次いでいる。
県P連などによると、20年度に北本と伊奈、21年度は新座と志木、22年度は戸田、23年度は久喜と幸手が抜けた。蕨は22年度、2年後の24年度にやめるとしていた。本年度は新たに、上尾、三郷、吉川、八潮、杉戸、松伏が24年度での休・退会を決定。白岡も検討していたが、1年延期する方針という。理由の大半は、会費負担よりも役員の荷重負担を上げた。
24年度は16市町となり、会員数は約5万世帯で、さいたま市を除く約36万4千世帯の13・7%に減少する。
■役員負担軽減したい
休会する上尾市P連の事務局を担う同市教委の担当者は、「役員の負担を軽減し、各校の活動を充実させたい。市P連の本部会は年8回、県役員を兼務するとさらに会議などが増える。市の当て職もあり、負担が大きい」と話した。
三郷市P連事務局の同市教委担当者は、県P連の運営への不信感も理由に上げた。県P連理事でもある同市P連会長の篠宮尚さんは「報道されている日本PTA(日P)の問題や県P連の運営について昨年10月に公開質問状を出したが納得のいく回答を得ていない」とした上で、「大切な会員のお金を支出できない」と語気を強めた。5年間で市町村組織数はさらに半減し、各校の負担金を加えた会費収入は3分の1に激減する。
日Pの副会長でもある比嘉会長は、「残念だが、やることをやっていくしかない。県行政のパートナーとして小さくなっても存在意味はある。役員を出すのは権利なのだが、各P連の活動で精いっぱいなのだろう」と話した。日Pの問題では「ガバナンスが甘かった」と釈明した。
■県レベルの組織必要
県教育局の担当課は「事務局員に最低賃金を支払っていなかったので、補助金を出す立場から法令にのっとっていないと注意した。ガバナンスが利いていない」と指摘。元県教育局主席社会教育主事でPTAに詳しい県立小川げんきプラザ所長の八木原利幸氏は「保護者代表として行政に物が言える県レベルの組織は必要。新しくつくり直すか、市町村P連のネットワークの構築が必要だろう」と話した。
■曲がり角迎える公的団体
「PTAってどんな組織ですか。入らなければいけないのですか」。県教育局をはじめ、市町村教委や各PTA事務局には毎年3月中旬から4月にかけて、相談や苦情電話が多数寄せられる。各校でさまざまな活動が展開される一方で、PTAそのものが今、大きな曲がり角を迎えているようだ。
各校や教委などのPTA関係者らは「コロナ禍を経て、活動や経験、人間関係などが継承されてない」「共働き世帯が増え、役員のなり手も減った」と嘆く。一方で、会計の不適切な処理や運営を巡る問題の指摘が後を絶たない。さいたま市PTA協議会(市P協)は、日本PTA全国協議会(日P)の幹部でもあった元会長による不明朗な支出金を公開するとともに、運営への不信から日Pの退会方針を決めた。
県教育局の担当課によると、PTAは社会教育法に基づく任意の社会教育団体で「公の支配に属さない」とされ、行政が事業に干渉することは戒められている。自主的、民主的な運営が求められるが、未熟だったりするケースも少なくないという。「地域の力を借りたり、効率化を図るなど工夫している学校もあるが、県P連などはもはや限界にきている」と指摘。「行政など公的機関が関われるよう、特別法で新たなスキームをつくることも必要では」と示唆した。
■PTAと連合組織 保護者と教職員が子どもたちの健やかな成長のために協力する任意の社会教育団体。戦後、学校運営の民主化へ向け、全国各地でつくられた。市区町村や郡市、都道府県単位で連合組織があり、各自治体の教育施策への提言などを担っている。全国組織の協議会は過去に、教科書の無償配布や学校給食などの実現に寄与した。