女子の制服にスラックス、埼玉の公立高校で導入増 防寒や多様性への対応に 同窓会などから反発の声も
埼玉県内の公立高校で女子の制服にスラックスを導入する学校が増えている。「動きやすい」「暖かい」と生徒たちの評判も上々。新年度から導入する高校もあり、着用する生徒はさらに増えそうだ。学校側は防寒など機能面の利点のほか、性的少数者(LGBT)ら多様性への対応といった教育的な意義を掲げる。LGBTの受容を推進する団体は「性的多様性を考えるきっかけになる」としつつ、他分野での選択肢の必要性も促す。
■57校が導入「年々増えている印象」
スラックスの普及が本格化したのは2015年。文部科学省が都道府県教委に対し、性的少数者である児童生徒に配慮するよう通達したのがきっかけだ。
県教育局によると、18年時点で県立高校139校のうち、男子校と制服の規定がない10校を除く129校で女子生徒用スラックスを導入している高校は57校。担当者によると、同年以降に導入し始めた学校もあり「年々増えている印象がある」という。
女子生徒の比率が高く県立高で唯一看護科がある常盤高(さいたま市桜区)は、06年度からスラックスを導入。3月現在で女子生徒235人のうち、13人がスラックスを所有している。山田直子校長は「毎日着るものなので、時代の変化や近年の気候変動、生徒のニーズなどにはできるだけ対応している」と話す。
昨年10月に購入した1年女子生徒(16)は「新型コロナの感染を防ぐため電車から自転車通学に切り替え、寒さ対策として購入した」と着用の理由を説明。「掃除などの場面でもスカートより動きやすい」との利点を挙げた。
浦和北高(同区)は多様性への対応や機能性の確保を目的に、18年度の女子制服の刷新時にスラックスを導入した。生徒に行ったアンケートでも導入希望の声が寄せられたという。
入学時にスカートとスラックスを同時購入した2年の女子生徒(16)は「学校を選ぶのに、制服にスラックスがあることを考慮した面もある」と打ち明ける。校内で着用者は多くないが「天気に合わせてスカートかスラックスを選んでいる人もいる」と話す。
■選択肢 後から購入も
県北・県央部の公立高の制服を販売する八木橋百貨店(熊谷市)は、数年前からスラックスを扱ってきた。購入者は次第に増加しているという。入学前にスカートと同時購入する学生が多いとしつつ、担当者は「年度途中にスラックスを追加で買う人もいる」と説明する。
金額面はスラックスがスカートより千円程度高い。「後からでも購入できる。学校での雰囲気を確認し、友人や家族と相談しながら慌てずに検討してほしい」と話す。
制服を取り扱う小売業者は、導入が広がり始めた当初「伝統の制服を変えることに同窓会などから反発の声が挙がり、導入に至らない高校もあったようだ」と振り返る。ただ「機能面の利点に加え、性的少数者などへの配慮も進めてほしいとの声が保護者などから寄せられたため、早い段階から導入した高校もある」ともいう。
県内全域でLGBTなどに関する性的多様性の受容を推進する「レインボーさいたまの会」の鈴木翔子共同代表は、スラックスの導入について「性的多様性を考える大きなきっかけになる」と評価する。一方で「制服は学校の象徴なので取り上げられやすいが、中には下着や靴下、髪型にも男女それぞれの規定がある学校が見受けられる。制服以外でもあらゆる選択肢を設ける必要がある」とした。