脳性まひ患い亡くなった青年ら登場 子育ての苦難や喜び 障害児の母親、医療的ケア児の日常を一冊に
人工呼吸器や経管栄養などの高度な医療的ケアを日常生活の中で常に必要とする「医療的ケア児」と呼ばれる子どもたちがいる。絵本「さっちゃんのまほうのて」の執筆者で、「先天性四肢障害児父母の会」の野辺明子さん(埼玉県さいたま市浦和区)が、医療的ケア児6家族の日常を取材し、在宅小児医療の専門医前田浩利さんとの共著で一冊の本にまとめた。さまざまな苦難を伴う子育ての中、日々のかすかな成長の兆しに喜びを見いだし、「この子と暮らせて幸せ」と語る父母の思いが紡がれる。野辺さんは「私たちが普段暮らしている中では見えてこない、こんな家族の生活があることを知ってもらいたい」と話す。
本のタイトルは「命あるがまままに~医療的ケアの必要な子どもと家族の物語~」(中央法規出版刊)。野辺さんが2018年から3年間にわたり、医療的ケア児の家庭に赴き取材した。前田医師が子どもと家族へのメッセージと医療的な解説を加えている。
同書には、体重448グラムという超低出生体重児として生まれ人工呼吸器をつけて退院した女児、出生前にダウン症や先天性水頭症と診断された子どもたち、脳性まひを患いながらも家族と共に24年間懸命に生き、取材中に亡くなった青年らが登場する。
新生児集中治療室(NICU)から退院し、在宅で医療と看護を受けながら生活する医療的ケア児とその家族。1回2時間かかるミルクの注入を日に6回行うため、まとまった睡眠時間が取れなかったり、外出するときに人工呼吸器や酸素ボンベなどの医療器材を積まなければならなかったり、不安と緊張の中で育児が始まる。
そうした日常生活を丁寧に聞き取り、親たちの思いもすくい上げて、家族の物語としてつづっている。また、在宅医療サービスの地域格差や母親の就労の問題、通院や通学時の親の負担、小児医療から成人医療への切り替えなどの課題も明らかにした。
野辺さん自身も障害児の母親だ。1972年に生まれた長女は右手指欠損だった。「わが子が障害児ということに打ちのめされたこともあった。世間の目を気にして娘の将来を悲観したことも。でも明るく育つ娘を見て、命があることに感謝した」といい、取材した親たちについて「子どもが明日生きていられるか分からないという大変な思いの中で育てている。それでも『この子がいたから生きてこられた』『一緒に暮らせて幸せ』と言う。なんて豊かな世界なんだろうと感動した」と話す。
医療技術が進み、助けられる命が増えた。医療的ケア児は10年前の2倍に増えているが、街や学校、公園などで当たり前のように見掛けることは少ない。野辺さんは言う。「医療的ケア児とその家族に目を向けてほしい。気軽に声を掛けられる世の中になってほしい」