埼玉新聞

 

新スタイルの学校「デモクラティックスクール」とは 予算など子どもが決定・運営 自ら学ぶ魅力が

  • 午前11時すぎ、おはようミーティングが始まった。子どもたちが司会や書記を務め、スタッフの田中麻美さん(左)と対等に話し合う=さいたま市西区中野林

 子どもたちが話し合いで、学びたいことや運営を自ら決める「デモクラティックスクール さいたま あみゅーず」(埼玉県さいたま市西区中野林)は2014年に開設され、8~14歳の9人が在籍している。新しい学びの場を取材した。

■大人と子どもは対等

 あみゅーずは午前と午後にミーティングを開く。学年や年齢は関係なく、大人と子どもは対等。運営方針、会費などの予算、ルール、学びたいことやイベントなど、子どもたちが協議して全て決める。

 午前11時すぎ、おはようミーティングが始まった。中沢優天(ゆうま)さん(11)、梅沢李実(ももみ)さん(10)、桝田梢さん(8)が参加。李実さんが司会、優天さんが書記を務めた。この日のスケジュールとして、取材を受けていることが報告された。

 唯一の大人でスタッフの田中麻美さん(47)が手を挙げる。「まみちゃん、どうぞ」と司会の李実さん。麻美さんは運営方針を提案した。あみゅーずは本年度、デモクラティックスクールネットワークの事務局を担当。新年度から年間3万円の報酬を受けることになり、配分額を協議した。午後2時、グッバイミーティングが行われ、主に困り事などを話し合う。午後のミーティングが終わると、分担して部屋を掃除していた。

■「ここがいい」

 優天さんは小学5年のグループ分けで親しい友人と離れたため、学校に行かなくなった。昨年7月から、あみゅーずに通っている。「みんなと一緒に行動するのが苦手。学校の施設ではなく、家という雰囲気なので、くつろぎやすくていい環境」と話す。

 李実さんは小学4年の途中から学校に行かず、あみゅーずに通う。「学校は決められているから」という。土曜日は絵の教室、日曜日は料理教室に行き、この日は自分で作ったチャーハンとハンバーグの弁当を用意していた。将来の夢は料理の先生。あみゅーずに通う理由を聞くと、「何か分からないけど、ここがいい」。優天さんがすかさず「何か分かる」とつぶやいた。

 梢さんの父親秀和さん(40)は、入学前に公立小学校を含め複数の教育施設を見学。梢さんがあみゅーずを選び、千葉県習志野市からさいたま市に引っ越した。「妻は不安がっているが、子どもに意思決定があるのが自然。丸暗記させる学校の教育がいいと思わない。勉強に意味はあるが、本当にやりたければ将来、自分で真面目に勉強すると思う」。妻のかおりさん(38)は「大丈夫かと思うときはあるが、本人が望んでいる。今後、小学校に行きたいと言えば、話し合っていく」と話した。

■親子2人で設立

 麻美さんは、子どもにどのような教育をしたら良いかを考え、1968年に米国で設立された「サドベリー・バレー・スクール」の創始者の著作を読んだ。子どもが議決権を持つという学校運営や、「子どもは必要なものを自分で学んでいく」という理念に共感。その後、「デモクラティックスクール まっくろくろすけ」(兵庫県市川町)のスタッフ研修を泊まりがけで1週間受けた。子どもたちがバンドやサッカー、山登りなど自ら学びたいことを学ぶ姿を見て、「これだ」と思った。

 長男の宙太さん(13)は開設当時、小学1年の年齢。「親子ではきつい」と思った麻美さんは、宙太さんに公立学校を勧めた。宙太さんは「ママの学校を一緒にやりたい。駄目だったら、まっくろに行きたい」と話し、自宅をスクールとして、親子2人での開設を決意した。翌年、1人が入学して徐々に増えていった。

 学習指導要領に基づいた算数や国語などの授業は行わず、子どもたちはゲームをしたり、じゃれ合って遊んだりしていた。自ら学びたいことがあれば、麻美さんや他の子どもたちは支援する。宙太さんは8歳の頃、「太鼓集団 響(ひびき)」のワークショップに参加して、太鼓に魅了された。稽古を重ね、今月14日に開かれた響のオンライン公演に出演するまで上達した。

 麻美さんは「大人たちが不安になる気持ちは十分理解できるけれど、子どもは自ら必要なものを学んでいく。子どもが自由に選択できることが大事で、大人は子どもの選択を信じてほしい」と語った。

 開校は月、水、金の午前9時50分~午後5時。いつでも登校できる「メンバー」が月6500円、たまに登校する「ビジター」が年間の登録料6千円、日額1100円。問い合わせは、田中さん(電話048・776・9546)へ。

■公的支援求める声

 子どもたちが学校を運営する「デモクラティックスクール」は、国内に16校あるとされる。2002年に正式に開校した「デモクラティックスクール まっくろくろすけ」(兵庫県市川町)が先駆けで、全国に少しずつ広がった。同種の民間教育施設のほとんどは、学校教育法の「学校」と認められず、公的助成を受けられないことから、支援を求める声が上がっている。

 17年に施行された教育機会確保法は、不登校の児童生徒を支援するため、「学校以外の場での多様で適切な学習活動の重要性」を明記し、国、自治体、民間団体の密接な連携を求めた。一方で、自治体の公的助成は進んでいない。札幌市や鳥取県が、「不登校の児童生徒の居場所になっている」として、フリースクールなどへの補助を実施しているが、デモクラティックスクールへの補助は想定されていないという。

 「さいたま あみゅーず」の田中麻美さんは「子どもに寛容な社会になってほしい。寛容な社会を広げるために、必要な教育だと思っていて、今後も続けていきたい」と話す。しかし、自らの給与を削って運営しているのが実態で、「喉から手が出るほど公的助成は欲しい」と話す。

 「まっくろくろすけ」代表の黒田喜美さん(55)は「公的助成があれば、通える子どもが増えるし、親の負担も減り、スクールの物質的な環境が良くなる。子どもは等しく応援されるべきで、認可された学校の子も、私たちのような無認可の学校の子も、家にいる子も、一人一人の子どもたちを支援してほしい」。予算を付けることばかりでなく、「私たちは体育館やプールの無料使用などを自治体に求めている。予算のいらない措置で、確保法の後ろ盾もあるので、ぜひとも実現してほしい」と訴えている。

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