<埼玉文学賞を語る>独自色持つ埼玉、暮らす人たちの視点を読みたい 小説部門の新審査員・須賀しのぶさん
5月から応募が始まった「彩の国・埼玉りそな銀行 第52回埼玉文学賞」。小説部門で新しく審査員となった作家・須賀しのぶさん(48)=埼玉県草加市=は壮大な人間ドラマを描く歴史小説の書き手として注目を集める。「『特徴がないのが特徴』と言われる埼玉。そんな愛すべき独自色を持つ地域で暮らす人たちの視点から見た『埼玉』を知りたいし、読みたい」。審査を通じ、“埼玉文学”との出合いを楽しみにしている。
須賀さんが初めて公募文学賞に投稿したのは上智大学の学生時代。それまで小説を書いたことはなかったが、当時審査員を務めていた作家の故・氷室冴子さんに会いたいと、1週間ほどでSF小説「惑星童話」を書き上げた。その作品が1994年のコバルト・ノベル大賞の読者大賞を受賞し、大学3年生でデビュー。就職せずに思い切って専業作家の道に飛び込んだ。
しばらくライトノベルを中心に活躍してきたが、10年前から一般文芸に転向。第2次世界大戦時のポーランドを舞台にした「また、桜の国で」が17年の直木賞候補にノミネート。ナチス将校と聖職者の青年2人を描いた「神の棘(とげ)」(2010年刊行)は名作と評価を受けた。
「プロになった今でも、書いて初めて『そうなんだ』と目が開く瞬間がある。頭の中にあることを言語化することによって『新しい気づき』がたくさん生まれ、読者に共有されていく。それが本当の『文学の力』なのかなと」。子どもの頃から本を愛する須賀さん。言葉に文学への愛がにじむ。
これまで他の文学賞で下読み(一次選考のため作品を読むこと)を担当した経験はあるが、審査員を務めるのは埼玉文学賞が初めて。引き受けるのにあたって、過去の受賞作(「つぎつぎ、生る」「ツクモの家」「家族の行方」)を読み、「非常にレベルが高くて驚いた」と感想を漏らす。
埼玉文学賞は創作意欲がある人であれば、居住地や年齢などを問わず誰でも応募できる。中には夏の風物詩のように毎年挑戦している人も多い。「1年に1回ゴールがあるというのは大きい」という。そうした応募者たちに「埼玉ならではの生活や風景の中にある普遍的なものをすくいあげ、見せてほしい」と期待を寄せる。
1969年に創設された埼玉文学賞は今回で52回目を数える。「地方から文学を盛り上げていくことは大事。だから、埼玉新聞社には文学のすその野をどんどん広げていってほしい」
■すが・しのぶ
1972年、草加市生まれ。県立浦和第一女子高校、上智大文学部史学科卒業。1994年に「惑星童話」でコバルト・ノベル大賞の読者大賞を受賞し、デビュー。2013年に「芙蓉千里」(三部作)で第12回センス・オブ・ジェンダー賞大賞、16年に「革命前夜」で第18回大藪春彦賞。高校野球を題材にした「雲は湧き、光あふれて」シリーズと「夏の祈りは」は埼玉が舞台となっている。