埼玉新聞

 

<新紙幣、新時代。>栄一翁の想い継ぐ~(5) 埼玉りそな銀行・福岡聡社長「道徳経済合一こそ心に留める理念」

  • 「道徳銀行」の扁額を前に、「道徳経済合一こそ我々が心に留めるべき理念なのだと強く感じた」と伝えた埼玉りそな銀行の福岡聡社長=さいたま市浦和区

    「道徳銀行」の扁額を前に、「道徳経済合一こそ我々が心に留めるべき理念なのだと強く感じた」と伝えた埼玉りそな銀行の福岡聡社長=さいたま市浦和区

  • 渋沢栄一について語った埼玉りそな銀行の福岡聡社長=さいたま市浦和区

    渋沢栄一について語った埼玉りそな銀行の福岡聡社長=さいたま市浦和区

  • 「道徳銀行」の扁額を前に、「道徳経済合一こそ我々が心に留めるべき理念なのだと強く感じた」と伝えた埼玉りそな銀行の福岡聡社長=さいたま市浦和区
  • 渋沢栄一について語った埼玉りそな銀行の福岡聡社長=さいたま市浦和区

 2024年7月3日、ついに発行となった新1万円札の肖像となる渋沢栄一翁は、我々の故郷・埼玉県深谷市の出身です。

 「道徳経済合一」や「論語と算盤」など栄一翁の精神は、変化に富む現代においても脈々と受け継がれ、多くの日本人がその魂に触れ、影響を受けています。

 「新紙幣、新時代。〜栄一翁の思い継ぐ~」では、地元深谷や栄一翁にゆかりのある皆さんに、栄一翁の残した「言葉」を選んでもらい、語っていただきました。

■「相愛忠恕の道を以て交はるべし」(「論語と算盤」実業と士道)

 埼玉りそな銀行は、旧大和銀行と旧あさひ銀行が統合して誕生したりそな銀行から切り出すような格好で設立されたのですが、その設立準備室長を務めたのが(初代代表取締役頭取の)利根忠博さんです。利根さんは長い間しまわれていた渋沢栄一翁の「道徳銀行」の扁額を出してきて、「初心に帰ろう」と、応接室に掲げました。

 この扁額は埼玉りそな銀行の前身の一つである黒須銀行に、渋沢翁が贈られたものです。黒須銀行は、渋沢翁の説いた道徳経済合一を業務の信条として「道徳銀行」と呼ばれました。

 利根さんは道徳経済合一に立ち返ることで、目指すべき銀行像を明確にしようとしました。県民の皆様に信頼され、ともに発展する銀行を作ろうと。

 当時の私は準備室の一番下っ端でしたが、銀行立ち上げのリアルな現場で、道徳経済合一こそ我々が心に留めるべき理念なのだと強く感じました。ただ知識として知っていたことに、魂が入った瞬間でした。

 渋沢翁の言葉で言えば、忠恕の道も忘れることができません。忠恕とは思いやり。心を穏やかにさせる思いやりを持つことが大事である。一切の私心を挟まず物事に当たり、人に接するならば、心穏やかで余裕を持つことができる。

 このフレーズには思いやりと利他の精神がある。この二つは私が常々、銀行経営に当たって大切にしているポイントです。これも渋沢翁の影響でしょう。

 渋沢翁は、かけがえのない教えを伝授してくださった。ただ我々は、それを守り通すことができませんでした。設立からわずか2カ月後に「りそなショック」(自己資本比率の大幅低下により約1兆9600億円の公的資金が注入された)を起こし、地元埼玉の皆様に大変なご迷惑とご心配をかけてしまいました。

 初心であるはずの道徳経済合一を守り通せなかったことが原因で、今も埼玉の皆様にご恩返しができたとは思っていません。

 ですから、渋沢翁の教えは我々にとってよりどころであり、戒めなのです。貴重に思いながらも、守り通せなかった反省と過ちは繰り返さないという覚悟が複雑に絡み合っています。

 渋沢翁の発言にはまた、今のような複雑な時代を乗り切るための哲学があります。歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は「歴史は考えても考えなくても見逃さない」と語っていますが、渋沢翁も「人は到底歴史から離れられない」という言葉を残しています。

 渋沢翁の時代にはコレラが流行し、現代では新型コロナが拡大した。渋沢翁は世界の分断と混乱を見て日本を考えた。その哲学を我々は学ぶべきだし、そこには次世代のチャンスがあるはず。教えを読み解くのは今を生きている我々です。

 埼玉が生んだ偉人が新1万円札の顔になるこの機会に、特に次代を担う若い人たちに渋沢翁の教えに触れていただきたいです。きっと、これからの時代を力強く生き抜くためのヒントが得られると信じています。

(2024年7月3日 埼玉新聞発行「新紙幣、新時代。~栄一翁の思い継ぐ~」より全文掲載)

■ふくおか・さとし

 1965年4月3日生まれ。北埼玉郡騎西町(現・加須市)出身。89年早稲田大学政治経済学部卒業後、埼玉銀行入行。2004年企画部次長。05年経営管理部グループリーダー。08年鶴ヶ島支店長。10年経営管理部グループリーダー。13年営業サポート統括部長。18年りそなホールディングス取締役兼代表執行役財務部長を経て、20年4月から現職。

第6回は7月9日(火)、パラアルペンスキー/パラ陸上選手の村岡桃佳さんを配信予定です。

=埼玉新聞WEB版=

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