<新型コロナ>苦しむ患者、搬送できず 自宅療養の救急要請が急増 入院先ない…長時間対応の隊員にも負担
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、自宅療養中の患者からの救急搬送要請が今月に入って急増している。救急隊員が駆け付けるものの入院先が見つからず、対応が長時間に及ぶことも。「苦しんでいる患者さんを搬送できないことが何よりつらい」。蓮田市消防本部の新井智消防長は直近の事例に触れ、緊迫の度合いを増す救急現場の実態を語った。
「息が苦しい」。8月下旬、自宅療養中の男性から午後3時ごろ、119番が入った。駆け付けた救急隊員が血中酸素飽和度を測定すると、正常値(約96~99%)を下回る93%の数値。調整を試みるも受け入れ先は決まらない。
男性の容体が安定したため、隊員が同意を得て署に戻ったところ、午後5時15分ごろ、再び男性から119番が入った。血中酸素飽和度は87%にまで低下していた。酸素を投与し、容体を観察。やはり入院先は見つからない。血中酸素飽和度が97%まで上がったため同意を得て、隊員は再度署に戻る判断をした。すでに午後10時半を過ぎていた。
翌朝午前8時10分ごろ、男性から三たび119番が入った。ようやく入院先が見つかり、男性が収容されたのは午前11時前。1回目の通報から、すでに20時間がたっていた。
新井消防長は「病院に連れて行きたいが、行けない。8月に入り、こうしたケースが増えた」と緊張した表情で話す。
長時間に及ぶ対応は隊員への負担も大きい。出動時に着用する防護服は、頭部を覆うため水分が補給できない。猛暑の中、保冷剤を詰めたベストを着込むものの、氷が解け切ってしまうこともある。
入院先が決まらない場合、患者の自宅で長時間待機するケースもあり、紙オムツを着用する。酸素ボンベの酸素が切れそうになったりすると、いったん消防署に帰り、交代して患者の自宅に訪れることもある。患者の対応が終わると、車両や機器を殺菌し、次の出動に備える。
同消防本部への8月1~27日の通報件数は257件。このうちコロナ関連の通報は20件で、入院先が決まらなかったケースは9件。扱った事案で自宅療養中に死亡したケースはないという。
現在、患者を隔離するアイソレーターを装備した救急車両3台と、飛沫(ひまつ)循環を抑制する車両1台の計4台の車両で、搬送に当たっている。非接触型の自動心臓マッサージシステムを導入するなど、県内でもいち早くコロナ対応を強化してきた。救急車両が不足するまでには至っていないものの、このまま自宅療養者からの通報が増え、入院先の病院が見つからない状態が続くと、車両や救急隊員の活動にもやがて限界が訪れる。
新井消防長は「苦しんでいる患者さんを搬送できないことが何よりつらい。病院、保健所とともに何とか命をつなげたい」と話し、一人でも多くの命を救うため感染予防の徹底を呼び掛けた。