小4長女はねられ、起きてくれない…涙で語る癒えぬ悲しみ 娘亡くした男性が講演「悲しい事故なくしたい」
一般社団法人「関東交通犯罪遺族の会(あいの会)」が、交通事故の遺族の声を伝える「命の里プロジェクト」。8月22日にオンラインで開催され、2013年に小学4年の長女を亡くした斎藤明さん(43)が事故後、初めて講演した。斎藤さんは癒えない悲しみを涙ながらに語り、「交通事故をなくしたい」と訴えた。
事故は13年12月15日に起きた。さいたま市西区三橋6丁目のショッピングセンター前で、自転車の長女が信号機のない横断歩道を渡っていて、乗用車にはねられた。斎藤さんは警察から連絡を受けて、家族で市内の病院に向かう。到着して約1時間後、亡くなったと告げられた。「警察官は何を言っているんだろうと思った。娘は擦り傷がありましたが、ただ寝ているようで、声を掛けても体を揺すっても起きてくれませんでした」
事故現場は以前から事故が多い場所とされ、斎藤さんは信号機の設置を求めて署名活動を行った。回答は近くの交差点に信号機があることなどから、設置できないというものだった。現場には今も信号機が設置されていない。県警によると、警察庁の通達した「信号機設置の指針」に基づいて、全国の信号機は設置されているという。
事故に遭ったとき、長女は10歳。斎藤さんの夢は大きくなった長女と一緒にお酒を飲むこと。中学、高校と成長していく姿を見たかった。結婚もしたかもしれない。「娘は全てできなくなってしまった。私たちも娘が生きていた頃には戻れない」。事故当時使用していた自転車は、「処分できない」と今も部屋に保管している。周りの目を気にしながら働くことがつらく、勤めていた会社を退職して誰も知らないアルバイト先で生活していた時期もあった。
7年半が経過して、友達、以前の会社やアルバイト先、地域の人たちに助けられてきた。長女の死を何とか認めようとしているが、悲しみは癒えない。今の目標は家族とともに生きて、長女と笑顔で会えるように、一生懸命生きること。「自分と同じような思いをしている人と一緒に、ゆっくりと少しずつ笑顔を取り戻せるように、サポートをしていければいいなと思う。世の中の交通事故をなくすために、何ができるかを考え行動できればと思っている」
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事故現場の横断歩道近くには花束と飲料水が置かれていた。交通事故が起きる場所と知ってほしいと、斎藤さんの妻が供え続けているという。斎藤さんは取材に「長女が交通事故に遭った場所で二度と悲しい事故が起きてほしくないという気持ち」と話した。
今年の春ごろまで、ネガティブなことばかり考え、生きている意味が分からない状態だったという。斎藤さんは「いろいろな人と話し、助けられ、少し前向きに考えられるようになった。人の言葉、助けが大事と思い、グリーフケアを勉強していきたい」と現在の心境を語った。