<月曜放談>多様性社会示した東京五輪・パラ 入間で始まったファミリーシップ制度、性的少数者への理解を
東京五輪・パラリンピックが閉幕した。開催そのものに賛否両論はあったが、終わってみれば、アスリートの活躍にたくさんの元気と勇気をいただいた。そして、何より特筆すべき点は、多様性社会を私たちに示してくれたことだと思う。これを機会にさらに誰もが生きやすい社会になることを切に願う。
その一つとして、9月1日から埼玉県の入間市でパートナーシップ・ファミリーシップ宣誓制度が始まった。パートナーシップ制度とは、同性カップルなど性的マイノリティの方々の関係を公的に認めるもの。ファミリーシップ制度は、これをさらに拡充し、パートナーシップ宣誓をされた方に未成年の子供がいる場合、公的に親子関係も認める内容だ。早速、22日に入間市で第1号の宣誓カップルが誕生した。宣誓書の受領カードは家族としての関係性を記載した「公的書類」として利用できる。
ファミリーシップ制度の導入は埼玉県内初、関東では2例目と知り、確かにファミリーシップ制度という言葉は聞き慣れないなと思った。そもそもパートナーシップ制度でさえ、導入されている市町村はまだまだ少ない。
私は数年前にある問題に直面し、かねてよりパートナーシップ制度の導入が日本では遅れていることを残念に思っていた。
県内に住む白血病の患者さんの大切なパートナーさんは同性だった。ただ、それだけでその患者さんの主治医はパートナーさんに病状説明をすることを拒んだのだ。病気の重さと治療の厳しさに立ち向かうには家族の支えは不可欠。患者さんにとって同性のパートナーさんは大切な大切な家族なのだ。しかし、主治医は「戸籍上の配偶者ではない方に病状の説明はできない」と言った。
だが、2018年3月14日、厚生労働省より「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」が改訂され、本人の意思を推定する者が「家族」から「家族等(親しい友人等)」に拡大されている。
結局、私は、理解ある東京都内の血液内科の医師を紹介した。その患者さんは長い白血病治療を終え、その後、オーストラリアで結婚式を挙げ、今は、パートナーさんと共にとても幸せに暮らしている。
そして、つい先月のことだ。県内に住む男性ホルモン投与中の性同一性障害の方が、婦人科系のがんと闘うことになった。入院先は女性部屋しか選択肢がないと聞き、病状として、「致し方ないか」と思う一方、がんと闘う上に、ストレスフルな環境下で数週間とはいえ、つらいだろうなと感じた。患者さんは、そのつらさを正直に医師に伝えたが、答えはこうだった。
「では、1日3万円の個室ですが(病院は1泊2日で6万円になる)、個室に入院されますか」
調べてみると、都内には「個室対応は治療上必要」というくくりで無料での個室対応をしている病院もあり、そちらに転院された。
東京五輪・パラリンピックでは「LGBTQ+(性的少数者)」だと公言して出場した選手がともに過去最多を記録した。だが多様性を尊重する姿勢は、まだ一般社会に浸透していない。入間市の取り組みを機に、性的少数者に対する理解が他の地域にも広がり、医療現場でも全ての患者さんに優しく対応してくれる社会になるよう願う。
(大谷貴子 日本骨髄バンク評議員)