埼玉新聞

 

<新型コロナ>死ぬ…家庭崩壊も 感染急増でも増やせぬ保健所の専門職、自治体間で取り合い「過労死寸前」

  • 会見で保健所の長時間労働の改善などを訴えた斎藤知春さん

 新型コロナウイルスの感染拡大で保健所の業務が逼迫(ひっぱく)した9月、越谷市保健所の同僚職員が「保健師らは過労死寸前」と、改善を訴え、労働基準監督署に通報した。市も対策に乗り出したが、保健師の不足や職員の定数の枠など、感染者の増加に即応するのは難しい。緊急事態宣言は解除されたものの、冬には第6波が懸念されており、市も現場も苦慮している。

■「このままでは死ぬ」

 「体調を崩す職員、家庭崩壊しそうな職員も見受けられる。このままでは死ぬのではないか」

 昨年4月、越谷市保健所に事務職員として配属された斎藤知春さん(40)は、激務が続く保健師らの現状に危機感を抱いた。新型コロナの感染が拡大。特に昼夜問わず、自宅療養患者の健康確認に追われる保健師の長時間勤務が際立つようになった。

 新型コロナのような感染症対応業務を巡り、市と市職員組合は1日5時間、1カ月で80時間、1年間で720時間を残業の上限とする労使協定「三六協定」を結んでいる。

 斎藤さんは保健所で複数の職員が三六協定の上限を超え、長時間残業を強いられていると強調。「外部から言ってもらうことが必要」と、9月1日付で労基署へ通報した。

■退職看護師を再雇用

 越谷市によると、管理職を含む保健師ら13人について、三六協定の上限を超える長時間残業があった。

 市内では8月下旬、1日当たり陽性者が100人を超えるなど、感染が最も拡大。市は退職した看護師14人を再雇用し、他の部署から応援を充てるなど、保健所の人員体制を強化したが、それでも対応しきれなくなる事態になった。

 本来、自治体で三六協定違反は珍しく、それだけ保健所に負担が集中した。市は労基署の指導を受け、今後の改善を図るとし、高橋努市長は「長時間労働を行った職員に適切な措置を講じ、職員の負担軽減を図るため労働環境の改善に努めていく」とコメントした。

■人手不足、支援に限界

 コロナ禍で全国的な問題になっている保健所の長時間残業。背景には保健師ら専門職の人手不足が影響している。市人事課によると、今年春までに保健師を採用する予定だったが確保できず、ようやくこの秋に2人採用することができた。専門資格を持った保健師は「周辺自治体と取り合いになっているのが正直なところ」という。

 また、自治体職員の定数は条例などにより定められ、計画的に採用することが前提となっている。感染者が急増しても、急に専門職の採用を増やすことは難しい。

 市は今後の感染拡大に対応するため、退職看護師の再雇用を延長するなどを検討している。「現場からは退職した看護師の応援のおかげで、だいぶ負荷が減ったとの声を聞いている。今後の感染対策につなげたい」と期待を寄せる。

 ただ、それでも足りないところは現場にしわ寄せが行く。「これまでの市の対応が実質的な改善につながっていない」と指摘する斎藤さんは、「保健師の正義感、頑張りに委ねられてしまっている現状がある。どうすればこの事態を乗り越えられるのか、しっかり認識して職員の労働時間を減らしてほしい」と改善を求めている。

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