虐待当事者のドキュメンタリー映画 都内で感謝祭 加藤登紀子さん、一青窈さんら支援者も参加し、出演者と映画の反響や感想を共有 「映画をきっかけに、世の中が変わる可能性を感じた」
児童虐待を経験した当事者によるドキュメンタリー映画「REALVOICE(リアルボイス)」の感謝祭が4日、東京都内で開催された。出演した当事者、活動に賛同している歌手の加藤登紀子さん、一青窈さんら支援者が参加した。映画の反響と感想を共有する機会にしようと企画され、監督の山本昌子さん(31)は「みんなに出演した意味を実感してほしい」と語った。
映画は2人の女性を中心に虐待当事者約70人が出演。山本さんが全国各地を訪れ、インタビュー形式により、声を聞いた。出演者は親への複雑な感情、学校や施設への感謝と怒りを語っている。
山本さんも生後4カ月の時にネグレクト(育児放棄)のため保護され、児童養護施設などで育った。自身は偏見やいじめに遭うことはなかったが、当事者たちの現実を知ってもらおうと製作した。映画は動画投稿サイト「ユーチューブ」などで公開している。
山本さんは、当事者がフラッシュバックするのではないか、内容がきちんと伝わるか不安があったという。映画の反響は大きく、埼玉を含む全国各地で上映会が開かれた。出演者も鑑賞に訪れ、「映画をきっかけに、世の中が変わる可能性を感じた」と山本さん。同じ思いを共有してほしいと感謝祭を企画。4日は全国から出演者28人が参加した。
■仲間の存在
兵庫県出身のななさん(23)は、母親から虐待を受けた。小学生の頃に不登校となり、「絶対に行け」などと包丁を突き付けられ、ランドセルごと家から閉め出された。暴力を受けることもあったという。頑張ったが、中学生になって再び登校できなくなり、中学3年間は施設に入所した。
何をやってもうまくいかず、親や児童相談所の職員ら「大人が全部悪い。大人になりたくない」と感じ、自殺念慮も強かったという。好転したのは高校に入ってから。母親と何度もトラブルになり、110番で駆け付けた地元の複数の警察官が「話を聞くよ」と声をかけてくれた。「本当にいい人たちで、まともな大人もいるんだと思った。今も連絡を取り合い、何でも話せる。人生を変えてくれた」
「気持ちを言ってくれてありがとう」「生きていてくれてありがとう」。ななさんは映画を見ていないものの、鑑賞した人の感想を読むと、「伝えることは大事」と実感した。将来に向けて、「死ななくて良かったを生きていて良かったに変えたい」と話した。
神奈川県出身のしゅんすけさん(22)は、母親から食事を作ってもらえないなどのネグレクトや「産まなきゃよかった」などの心理的虐待の被害を受けたという。洗濯をしてもらえず、高校の先生が異変に気付いてくれて救われた。映画では「子どもたちのちょっとした変化も見逃さないでほしい」と訴えた。
出演したことで、同じような経験をした人たちが全国に存在することを知った。自分一人ではないと感じて、安心感が芽生えたという。仲間が増え、普段話せないことも話せるようになった。大学4年で就職活動を続けている。自身の経験を踏まえて、児童養護施設の職員を目指している。
■楽曲を提供
映画の主題歌は加藤さん作詞作曲の「この手に抱きしめたい」、挿入歌は一青さん作詞、森山直太朗さん作曲の「耳をすます」。監督の山本さんがそれぞれの歌を聴いて心を揺さぶられ、楽曲提供を依頼した。加藤さんの歌声は母親の愛情のように、「耳をすます」の歌詞は映画のアンサーソングに感じたという。
感謝祭では、加藤さんと一青さんが出演者らに語りかけ、提供した楽曲を歌った。出演者と支援者の1対1による映画の感想シェア会が行われ、2人も参加した。
感謝祭は東京・日本橋のIT企業「サイボウズ」東京オフィスで開催された。同社は児童虐待防止などの社会的活動を支援しており、会場は無償で提供された。