埼玉新聞

 

<月曜放談>求められるリーダー像、新総理総裁への期待 埼玉りそな銀行会長・池田氏寄稿

  • 池田一義氏

 新しい日本のリーダーが決まった。自民党総裁選の候補者を拝見し、改めて国家を経営するリーダーはどのような人物が相応しいのか、立場を弁えず考えてみた。

 課題山積―というのが、わが国の現実である。当面の新型コロナウイルス対策が重要であることは論をまたないが、構造的な問題である少子高齢化、経済の成長戦略、長期的な金融緩和(マイナス金利の継続)、行財政改革、社会保障と税の一体改革、地方創生、そして脱炭素社会の実現など数えきれない。これらの課題に果敢に取り組むには想像以上の困難が生じる。まさに胆力が求められる。

 国家のリーダーは、国民の期待に応えるため、国民の痛みを肌で感じ、国民の声を聴くことが大切である。そして多面的な分析から答えを出さなければならない。また、大局観、国家観、そして政治哲学を持ち、答えを出す過程の中で、その信念に基づいた決断をしなくてはならない。

 日本の持つ課題の多くは、その解決に利益が相反する、トレードオフの事象も多い。例えば、格差解消への分配と成長を促す財政出動は財政規律を歪めプライマリーバランスを損なってしまう。影響が多方面に及ぶ事象もあり、課題の解決には大きな変革や痛みを伴うことになる。

 それゆえリーダーには、国家の現状を冷静に認識し、取捨選択し、そして果敢に実行するためのビジョンを国民に分かりやすく説明する能力が求められる。加えて、中長期的な視点をぶらさず、大義をもって利害の異なる人々や各階層をも納得させる強いリーダーシップも必要である。

 では、そのための基本的資質とは何であろうか。

 孔子が理想とした為政者は、周王朝の基盤を創り上げた周公旦であった。古典を通じてリーダーの人物像や、何を学び、何を民に語りかけたのか、徹底して学んだという。論語に「子日わく、政を為すに徳を以ってすれば、譬(たとえ)ば北辰の其の所に居りて、衆星の之に共(むか)うが如し」とある。仁徳を備えた君子と呼ばれる人が政治を行えば、例えば輝き続ける北極星のように、多くの星がそのまわりに集まってきて理想の政治が実現する、という意味である。

 また、アリストテレスの倫理学をまとめた「ニコマコス倫理学」では、「人間のあらゆる行為や選択はすべて何らかの善を希求する」とあり、社会や国家にとっての「善」を大志として掲げることで民衆を導くことが述べられている。

 仁徳を以って衆星を最大限活用し、日本の構造的課題を中長期的に解決するビジョンを物語り、国民に共感を得て善き方向へ導いてくれるリーダーであってほしい。新総理総裁に期待を込めて。

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